裁判例から見る介護事故の類型別対策②:徘徊事故

  • 「徘徊傾向のある方の介護事故を防ぐためにはどのような対策を取ると良いだろうか」
  • 「施設を抜け出してしまった方の事故につき施設はどのような責任を負うのか」

こういった疑問をお持ちの介護事業者様はいらっしゃいませんか?

介護サービスを利用される高齢者の中には認知症が進んだ方も多く、その中には、周辺症状として徘徊を繰り返してしまう方がいらっしゃいます。徘徊傾向がみられる方が、施設を飛び出して外で転倒したり交通事故に遭ったりした結果、最悪の場合亡くなってしまう危険があります。そして、万が一こうした事故が発生してしまうと、介護事業者が損害賠償責任などの法的責任を追及されることもあります。

そこで、こちらでは札幌市近郊で介護事業者への顧問に特化している弁護士が、利用者の徘徊による事故における介護事業者の損害賠償責任について、裁判例も踏まえてご説明いたします。

 

徘徊事故により事業者が負う法的責任

徘徊事故により介護事業者が負う責任のうち、最も問題となるのは民事上の責任、すなわち損害賠償責任です。

介護サービスを提供するにあたって、介護事業者は利用者に対する安全配慮義務を負い、事故の危険を予見できる状況において事故結果回避のための措置を取らなければこうした義務を尽くさなかったとされます。そして、事故が安全配慮義務を尽くさなかったことが原因で起こったとき、介護事業者が利用者に生じた損害についての賠償責任を負います(民法第415条)。また、安全配慮義務違反が介護を担当する従業員の過失として不法行為(民法第709条)が成立し、その使用者である事業者が使用者責任に基づく損害賠償責任を負うことにもあります(民法第715条)。

(なお、介護事故における介護事業者の責任については、他にも業務上過失致死傷罪が問われるなど刑事上の責任となるケースや、地方公共団体からの指定の取り消し等の行政上の責任が問題となるケースもありますが、こちらの記事では損害賠償責任につき説明していきます。)

 

徘徊事故に関する裁判例

発生した事故が、そもそも予想しえないような突発的な事故(予見可能性がなかった場合)や、介護事業者として通常求められる程度の安全配慮を尽くしても防ぐことが出来なかった事故(事故結果につき回避可能性がなかった場合)であれば、これにより生じた損害につき介護事業者が賠償責任を負うことはありません。

もっとも、以下のように裁判例においては、介護事業者は介護サービスを専門的に提供するものであり、その従業員も介護の専門知識を有しているべきであることから、介護事故防止のために事業者が尽くすべき安全配慮義務(注意義務)の程度は高度なものが要求されています。

静岡地方裁判所平成13年9月25日判決

【事案の概要】

重度の認知症でありYの運営する老人デイサービスセンター(本件施設)に通所していたXが、本件施設の高さ84センチメートルの1階廊下の網戸付きサッシ窓から脱出してそのまま行方不明になり(本件事故)、後日死体で発見された。そこで、Xの子らが、Yに対し、Xの死亡がYの職員の注意義務違反によるものであるとして、Yに対して使用者責任(民法第715条)に基づく損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のようにYの職員にXの行動を注視義務があったこと、かかる義務に反する過失があったことから、本件事故におけるYの賠償責任を認めました(もっとも、Xの失踪から直ちにXが死亡することまで予見できたとはいえないことを理由に、注視義務違反と死亡結果との間の相当因果関係は否定され、Yは遺族の精神的苦痛に関する慰謝料等に限って賠償すべきとの結論となりました)。

(注意義務の内容)

・Xのように失語を伴う重度の認知症と診断されている者が単独で施設外に出れば、自力で施設又は自宅に戻ることは困難であり、また、人の助けを得ることも困難であると考えられる。Yの職員は、Xが失踪直前に靴を取ってこようとしたり、廊下でうろうろしているところを目撃していたのだから、Xが施設を出ていくことを予見できたと認められ、したがって、Yの職員にはXの行動を注視して、Xが施設から脱出しないようにする義務があったと認められる。

(Yの注意義務違反の有無について)

本件事故当日における本件施設のデイサービス利用者を担当していたのは寮母2名のみであり、うち1名は入浴サービスに従事しており、他の1名は要トイレ介助の女性2名をトイレに連れて行っており、Xを注視する者はいなかった。Xの失踪時、本件施設の玄関は内側からは容易に開かないようになっており、裏口は開けると大きなベルとブザーが鳴る仕組みになっていたため、これらからXが出ることは困難であったものの、Xのような身体的には健康な老人が、84センチメートル程度の高さの施錠していない窓をよじ登って脱出することは予見できたと認められる。

また、法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとって過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではなく、本件では2人の寮母で男性4名、女性5名の合計9名を介助し、入浴サービスに連れて行ったりトイレに連れて行ったりするかたわら、Xの挙動も注視しなければならないのは過大な負担であるが、これをもって回避の可能性がないということはできない

したがって、Yの職員は、Xの失踪について過失がある。

 

福岡地方裁判所平成28年9月9日判決

【事案の概要】

認知症を患い、主治医意見書にも徘徊がある旨明記されていたXは、社会福祉法人Yの運営する老人デイサービスを利用していた。ある日Xはデイサービス建物内を歩行し、非常口から施設を抜け出した(本件事故)。20分後に職員が気づいて捜索活動を行ったがXを発見できず、同日夜、Xは低体温症により死亡した。そこで、Xの相続人らが、Xの死亡がYの過失ないし安全配慮義務違反によるものであるとして、使用者責任および債務不履行責任による損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

裁判所は以下の通り、事業者や職員に①人的・物的体制の整備義務、および②動静の注視義務があったとしたうえで、本件事故においては②の動静注視義務の違反を理由にYの責任を認めました。

(介護事業者が負う注意義務の内容)

・Yは認知症罹患者を含めた高齢者を対象とした事業を行う事業者であること、デイサービス利用契約にはY及びYの職員がXの生命、身体の安全確保に配慮するものとされていること、また、Xには認知症状として徘徊癖があったことはYやYの職員も認識していたことから、Xが施設利用時に徘徊癖が発現し、施設を抜け出した場合にはXの生命や身体に危険が及ぶおそれのあったことは明らかというべきである。したがって、①Xが本件施設を抜け出して徘徊することがないようYにおいて人的・物的体制を整備し、あるいは、②Yの職員において本件施設利用中のXの動静を見守る義務(注視義務)があった

(Yの①人的・物的体制整備義務の違反について)

Yにおいては、本件事故当日は28名の施設利用者に対して9名の職員で対応するという人員体制を敷き、さらに本件事故当時は9名のうち4名が昼休憩をとり5名の職員のみで対応をしていたが、これは昼休憩時の一時的な状況であって、本件施設の利用者滞在スペースが一区画の大部屋であるとしても、限られた時間であれば5名の職員によって本件施設利用者全体の動静を把握できない状況であったとは必ずしも認められないから、本件事故当時の本件施設における人員体制が利用者の抜け出しを防止するためのものとして不適切であったとまでは認められない
また、施設の出入り口にはデイサービスエリア正面出入り口を除き、人の出入りを音で知らせる器具等は設置されていなかったものの、上記人員体制の下、職員が本件施設利用者の動静を適切に見守ることにより本件施設利用者が本件施設を抜け出すことを防止できることからすれば、本件非常口に正面出入り口と同様の器具等を設置していなかったことをもって、物的体制の不備とまでは認められない
したがって、Yにおいて、①人的・物的体制の整備を怠った義務違反(過失)があるとは認められない。

(Yの②動静注視義務違反について)

Xには徘徊癖があって本件事故当日においても帰宅願望があり、本件事故の直前にもXはデイサービスフロア内の椅子から立ち上がり同フロア内を歩行して非常口へと向かっていたのだから、Yの職員においてはXが本件施設を抜け出すおそれのある危険な兆候として捉え、少なくとも、その行き先を目で追い一定時間後の所在の確認を要するものであって、Xの本件施設からの抜け出しと徘徊についての予見が可能であったというべきである。

それにもかかわらず、Yの職員は誰一人としてXの上記行動を注視せず、Xを本件施設から抜け出させており、デイサービスフロアにいた職員において、施設利用相談への対応や引き膳作業に従事していたとしても、Xを含む本件施設利用者の動静に意を払うことができなかったものとは認められず、そうすると、Y職員において、Xが本件施設を抜け出して徘徊することがないよう、その動静を見守るべき義務(注視義務)に違反したものと認められる。そして、現場の職員においてXを本件施設からこのように容易に抜け出させたとすれば、これはYにおける職員に対する日常的な指導や監督が不徹底であったことを裏付けるものに他ならず、Yにおいて相当の注意をもって職員を指導監督すべきであったというべきである。

 

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もし、訴訟で介護中の事故についての責任を追及されると、事業者においては長時間にわたる訴訟対応が必要となるだけでなく、賠償責任が認められると多額な金銭の支払いを強いられてしまいます。また、従業員の方も裁判所における証人尋問に出頭しなければならないなど、大きなストレスに晒されることになります。

ここまで見てきた裁判例においても、徘徊傾向のある利用者への注視義務を相当厳しく判断しており、介護事業者においてはできる限りの対策をしてこうした入居者の安全を確保する体制を整える必要があります。また、万が一事故が起きてしまったときに、誤った対応により損害を拡大させたり、ご利用者らの不信感を募らせたりしないように普段から準備しておくことも重要です。

そこで、弁護士法人リブラ共同法律事務所の、介護事業者様向けのサービスに特化した「介護顧問」をご活用ください。

当事務所の「介護顧問」は、介護業界特有の労務問題や事故・クレーム対応、従業員の方への法的支援(EAP)、ご利用者への法的支援、といったサービスを弁護士が介護施設の顧問としてご提供するものです。介護事故を巡る対応についても、万が一事故が起こった際の関係者との連絡、示談交渉、訴訟対応につき弁護士にお任せいただけるのはもちろん、予防法務の見地から、介護サービス利用契約書等のリーガルチェックや、関連法規や裁判例だけでなく顧問先事業者様の実情も考慮した事故対応マニュアルの作成・運用のサポートをさせていただきます。また、従業員の方向けの介護事故を想定した定期的な研修を開催することで、対応にあたる従業員の方の精神的負担を軽減し、定着率の向上を図ることも可能です。

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