問題社員への効果的な指導方法とは?弁護士が注意点を解説

問題社員には、「勤務態度やパフォーマンスに課題がある社員」だけでなく、「周囲との円滑なコミュニケーションを阻害し、職場環境の悪化を招く社員」も含まれます。こうした問題社員への対応を誤ると、会社全体の士気低下や業績への悪影響ばかりか、場合によっては労働紛争に発展するリスクもあります。そこで今回は、問題社員への適切な指導方法を中心に解説いたします。

 

問題社員への指導が必要な理由

問題社員が組織内に存在する場合、経営者や管理職、人事担当者は迅速かつ適切に対処することが求められます。放置してしまうと、以下のような弊害が生じることがあるため、注意する必要があります。

職場環境の悪化

問題社員の言動により、他の従業員がストレスを感じ、業務に支障をきたすおそれがあります。周囲の社員が不満を抱えたまま問題が放置されると、チームワークが乱れ、生産性の低下や離職率の上昇につながりかねません。

 

企業イメージや信頼の損失

問題社員を抱えている状態を長期間放置していると、企業の管理能力やコンプライアンス意識が問われる場面が出てきます。周囲の社員や取引先、顧客から「この会社は問題があっても放置する体質なのではないか」という印象を持たれ、企業イメージを損ねるリスクがあります。

 

労働トラブルの深刻化

問題が拡大してから解雇などの厳格な処分を行うと、本人が不当解雇を主張し、労働審判や訴訟に発展する事態にもなりかねません。問題社員への注意・指導のステップを適切に踏むことで、会社にとっても本人にとっても、公平・妥当な解決を目指しやすくなります。

 

以上のリスクを回避するためにも、早期の段階で問題社員に対する指導を開始し、問題の所在を明確にしながら改善を促すことが重要です。

 

経営者、人事担当者が知っておくべき指導方法のポイント

問題社員を指導する際は、まず「企業としてどのような行動を問題視しているのか」を明確に示す必要があります。さらに、具体的な行動計画や改善策を示して本人にも理解してもらい、実行を促すことが大切です。以下では指導方法として効果的な例をいくつかご紹介いたします。

 

複数人での指導

複数人での指導を行うことで、後から「そんなことは言われていない」、「パワハラだ」といったトラブルに発展するリスクを軽減できます。経営者や人事担当者、法務担当者などが共同で指導にあたることで、公平性が担保されるとともに、社内ルールや現場の実態を踏まえた合意形成を図りやすくなるメリットもあります。

 

指導記録の作成

口頭注意だけでは、後々「言われていない」などと主張されるおそれがあるため、指導内容を記録に残すことが重要です。日時・場所・出席者・詳細を明記した書面を作成し、社内で共有することで、記録の抜け漏れを防ぎ、紛争時には客観的な証拠として活用できます。

 

定期的な面談の実施

問題社員の改善を促すには、一度の注意では不十分なケースが多いのが実情です。そこで、一定期間ごとに面談を行い、業務状況や態度の変化を確認しながら課題を共有し、次のアクションを決めていくことが効果的です。会社側の一方的な指示ではなく、本人の意見を聞きつつ指導内容をアップデートしていくことで、改善の可能性を高められます。

 

注意書や指導書の作成

書面化された「注意書」や「指導書」を作成し、問題となっている行為や改善すべき点を本人にわかりやすく伝えます。署名・捺印を求めることで本人に責任感が生まれ、会社側の誠実な対応姿勢も示せます。本人が署名を拒否した場合にも、説明を行った事実や第三者の立ち会いを記録に残すなどして、後日の紛争予防につなげましょう。

 

指導後に問題行動が改善されない場合の処分に関して

問題社員が指導に応じず、改善が見込めない場合には、さらなる対処が必要になります。具体的には、以下のような措置が考えられますが、いずれの対応においても、企業としては慎重な手続と客観的な理由が求められることを念頭に置きましょう。

 

降格

降格を行うには、就業規則に定められた手続きを踏むことが欠かせません。能力不足や素行不良など、正当な理由がある場合に限定されます。降格後も適切な業務の割り振りやフォローを行い、社員が新しいポジションでも活躍できる環境を整えることが重要です。

 

配置転換

現在の部署や業務がその社員に合っていない場合、配置転換により改善が期待できるケースもあります。ただし、恣意的に行うとトラブルにつながる可能性があるため、本人にきちんと説明しながら、就業規則や労働契約上のルールを遵守したうえで検討することが求められます。

 

退職勧奨

退職勧奨はあくまで「自主的な退職を促す」ものであり、強制的な解雇とは異なります。しかし、実態が事実上の強要となれば違法となり得るため、慎重な対応が必要です。本人の意思確認を丁寧に行い、必ず複数人体制で記録を残しながら手続きを進めましょう。

 

解雇

解雇は社員にとって最も不利益を伴う処分であり、法律上も厳しい制限が設けられています。解雇権の濫用が認められると無効となるリスクが高いため、正当な理由に基づき、段階的な指導および処分を記録していくことを徹底する必要があります。

 

まとめ

問題社員への指導は、企業経営において見過ごすことのできない重要な課題です。最初の段階で正しいプロセスを踏み、記録をしっかりと残し、本人の言い分も丁寧に聞くことで、紛争へ発展するリスクを大幅に低減できます。降格や配置転換、退職勧奨、解雇といった最終的な手段を行使せざるを得ない場合であっても、正当な根拠と慎重な手続きが必須となります。弊所では、問題社員に関する労務トラブルに関する幅広いサポートを行っております。お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。