企業に求められるセクハラ対策

企業に求められるセクハラ対策

☑「女性従業員からセクハラについて相談を受けた」

☑「セクハラ行為をしている管理職に対しどのような措置を取ればよいか分からない」

☑「セクハラに悩んで退職したという社員から、損害賠償を求める書面が届いた」

こういったお悩みをお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか? 

近年、法規制の強化や従業員の権利意識の高まりもあり、中小企業においてもハラスメントに関する問題が表面化するケースが増加しています。

ハラスメントに対しては、「当人同士の問題だから」とお考えの経営者様もいらっしゃるのではないかと思います。ですが、ハラスメントを巡っては、従業員から損害賠償請求訴訟を起こされるなどして、会社の管理責任を追及されるケースもあることをご存知でしょうか。

そこで、こちらでは、ハラスメントの最も代表的類型の一つであるセクハラ(セクシュアル・ハラスメント)について、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、企業に求められている対策のポイントを解説いたします。

セクハラとは

職場におけるセクハラとは、「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」を言います。「職場」には、出張先や、打ち合わせ場所、接待の席、…といった労働者が通常就業している場所以外の、実質上職務の延長と考えられるものが含まれます。また、「労働者」は事業主が雇用するすべての労働者を指し、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などのいわゆる非正規雇用労働者も含まれます。また、派遣労働者の派遣先事業主は、自ら雇用する労働者と同様の措置を派遣労働者にも講じなければなりません。

 

セクハラに対する法規制

セクハラについては、法律上は事業主のとるべき対応を定める規定が男女雇用機会均等法(以下、「均等法」と呼びます。)内に設けられています(均等法第11条)。
均等法は2007年改正により、同規定において従前は単なる事業主の配慮義務とされてきたものを措置義務に強化したのち、2020年の改正では、事業主に相談したこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止、および自社の従業員が取引先等の他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応も新たに明文化しています。

【参考・男女雇用機会均等法11条(抄)】

  1. 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

  2. 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

  3. 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。

  4. 厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

第4項にいう「指針」については、次に説明します。

 

事業主が講ずべき措置

均等法第11条第4項の「指針」は、厚生労働省は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号。以下、「セクハラ指針」と呼びます)を定め、具体的にとるべき措置の具体例を示しています。以下、順に見ていきます。

(1)事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

まず、企業はセクハラの内容、および「セクハラがあってはならない」、という明確な方針を打ち出し、それを管理監督者を含む従業員に周知・啓発しなければなりません。

こうした措置を講じたと認められる例は、以下の通り指針に示されています。

①就業規則その他の服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となり得ることを、労働者に周知・啓発すること
②社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となり得ること並びに職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を記載し、配布等すること
③職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び性別役割分担意識に基づく言動がセクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となり得ること並びに職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること

また、企業はセクハラを行った者に対して厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則等に規定し、管理監督者を含む従業員に周知・啓発しなければなりません。

措置を講じたと認められる例は、以下の通りです。

①就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること
②職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること

このように、セクハラ指針は、就業規則等に職場におけるセクハラの「内容」について定めることを求めていますので、例えば「他の従業員の意に反する性的な言動を行ってはならない」等との記載だけでは足りないと評価されてしまうおそれがあります。他方で、セクハラに該当する言動をすべて列挙することも現実的ではなく、困難です。そこで、就業規則等には、代表的な例(「性的及び身体上の事柄に対する不必要な発言」「性的な言動への抗議を行った従業員に対する、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為」等)をいくつか挙げたうえで、最後に「その他前各号に準じる性的な言動」として包括条項を定めておくことが望ましいです。

また、セクハラ指針は、セクハラを行なった者がけん責、減給、出勤停止等の懲戒処分の対象となることを明確にすることも求めています。セクハラに限らず、従業員に対して懲戒処分を行うためには、必ずその旨を就業規則に定めておく必要があるというのは裁判例でも示されていることですので、就業規則の規定に漏れがないか、確認しておきましょう。

(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

企業には相談対応のための窓口をあらかじめ定めることが求められます。措置を講じていると認められる例は以下の通りセクハラ指針に示されています。

①相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
②相談に対応するための制度を設けること
③外部の機関に相談への対応を委託すること

また、せっかく窓口を設けても、セクハラ被害を受けた従業員が委縮してしまい、相談を躊躇してしまったら意味がありません。そこで、セクハラ指針は、相談者の心身の状況や当該言動への受け止め方等にも配慮して、相談窓口の担当者が相談内容や状況に応じ適切な対応が出来るような措置、および、セクハラ発生の恐れやその該当性判断が微妙な場合であっても広く相談に対応できるような措置もとるよう、企業に求めています。

措置を講じたと認められる例は以下の通りです。

①相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
②相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること

③相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

(3)職場におけるセクシャルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

セクハラに関する相談・苦情がなされたときに、対応を誤れば、問題が解決するどころか悪化しかねません。そこで、セクハラ指針は企業に対し、まずは事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認を図るよう示しています。措置を講じたと認められる例は以下の通りです。

①相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者および行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止め等その認識にも適切に配慮すること。
また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること
②事実関係の迅速かつ正確な確認が困難な場合、男女雇用機会均等法第18条に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること

そして、こうした確認を経てセクハラの事実が認識された場合は、速やかに被害者および行為者に対し、適正な措置をしなければなりません。適正な措置として、セクハラ指針は以下の例を挙げています。

①事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること

②就業規則その他の服務規律等を定めた文書におけるセクシュアルハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。

③男女雇用機会均等法第18条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を講ずること

さらに、以下のような再発防止に向けた措置をとらなければなりません。

①職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること
②労働者に対して職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること

(4)上記措置と併せて講ずべき措置

さらに、セクハラ指針では、ここまで述べてきた措置と併せて講じるべき措置をいくつか挙げています。

まずは、セクハラの相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることに鑑み、相談への対応や事後対応にあたっては、これらのプライバシーを保護するために必要な措置を講じるとともに、その旨を従業員に周知しなければなりません。ここにいう必要な措置の例は以下のように示されています。

①相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること
②相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと
③相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報または啓発のための資料等に掲載し、配布等をすること

続いて、セクハラについて相談窓口を利用した従業員や、事実関係の確認等の措置に協力した従業員、都道府県労働局に対する相談・紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行い又は調停の出頭の求めに応じた従業員に対して、そのことを理由に不利益な取り扱いをしない旨を定め、従業員に周知・啓発しなければなりません。そのための措置を講じたと認められる例は以下の通り示されています。

①就業規則その他の服務規律等を定めた文書において、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと、または事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること
②社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報または啓発のための資料等に、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること

ハラスメント対応には顧問弁護士をご活用ください

均等法の違反が疑われると、企業は都道府県労働局長により報告を求められ、又は助言、指導もしくは報告を受けることがあり(均等法第29条)、報告を求められても報告をしない又は虚偽の報告をした際は過料に処されたり(同法33条)、勧告に従わなかった場合の企業名を公表される(同法第30条)といったリスクが生じます。また、民事上も、セクハラ指針に沿った雇用管理上の措置を十分に尽くさなければ、使用者責任(民法第715条)、債務不履行責任(民法第415条)を追及され、多額の賠償を求められるおそれもあります。

こうしたリスクを極力抑えるためには、セクハラの相談・苦情を受けたら迅速かつ中立的な事実認定を行うことが重要です。ですが、セクハラはその性質上、他の従業員に気づかれないよう陰で行われていることがほとんどで、明らかな証拠があるケースは稀で、当事者の証言くらいしか手がかりがなく、事実認定が難しいことのほうが多いです。また、ある程度事実認定が出来たとしても、当該行為がセクハラであるかどうかの評価は、関係法規の知識や裁判例に基づき行われなければならず、企業の担当者が一から判断することは困難といえます。そのため、関連法規や裁判例に通じており、事実認定を含め訴訟等の法的紛争の場における戦術を熟知した弁護士の判断を仰ぐことが重要です。

また、セクハラの影響は当事者だけではなく、周りの従業員にも士気の低下といった形で及びます。そのため、そもそもセクハラによる被害は予防するに越したことはないでしょう。そして、予防のためには社内でマニュアルや就業規則などの規程を十分に整備し、これらの周知や研修等を通じて従業員に対して教育を行う必要があるほか、これらの活動は、それぞれの会社や社会情勢の変化に応じて継続的に取り組まれなければなりません。このように、継続的に会社の状態を把握し、適切な対策を続けるなら、随時対応が可能な顧問弁護士のご活用をお勧めいたします。

そこで、弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。セクハラ問題への対応についても適宜、企業様からのご相談をお受けすることが可能です。また、損害賠償請求等の紛争につき企業側の代理人としての対応はもちろんのこと、紛争化を防ぐための就業規則の整備や労働環境の調整などについても専門的な見地からアドバイスをさせていただきます。

どのような対応が紛争を防ぎ、紛争化しても企業に有利な効果をもたらすのかは、それぞれの事案によっても異なります。セクハラを巡る対応にお困りの札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

関連ページ

企業に求められるパワハラ対策-パワハラ防止法の概要

ハラスメント

 

Website | + posts

当事務所では、使用者側(経営者側)の労働事件に注力して業務を行っております。問題社員対応、残業代請求、解雇・退職勧奨、各種ハラスメント等の人事労務問題でお悩みの方は、労務顧問に注力している当事務所までご相談ください。

当事務所の顧問弁護士サービス
解決事例