「仕事が遅い・効率が悪い」

「ちょっとしたミスを連発する」

「仕事に必要なスキルがいつまでも身につかない」

といった社員に心当たりはないでしょうか。

昨今の人手不足の影響を受け、中小企業では特に採用基準を下げざるを得なくなった結果、こうした能力や適格性に欠ける従業員を採用するリスクが増大しているといえます。そこで、こちらでは、こうした能力・適格性に欠ける問題社員への対応のポイントにつき、札幌市近郊で使用者側の労務問題に注力する弁護士が説明いたします。

1 基本的な流れ

(1)段階を踏むことが重要

当該問題社員が必要な能力を習得し、パフォーマンスを向上させてくれれば、会社と社員の双方にとって最良の結果であることは言うまでもありません。そこで、能力・適格性を欠く問題社員本人に対しては、まずは指導や研修により必要な能力の習得・向上を図り、変化が見られるかどうかを確認していくのが基本です。この際、指導の記録を書面で残しておき、本人の署名をもらっておくと、後々の紛争の際に会社に有利な証拠となります。また、本人だけではなく、周囲の社員や上司へのヒアリングを通じて組織内の制度を見直すなど、会社全体で改善できることがないかも検討する必要があります。それでも状況が改善しない場合には、会社の規模にもよりますが、別の部署へ異動して適性を見ることも選択肢に入ります。

指導しても改善がなければ、戒告、減給、出勤停止、降格といった就業規則に基づく懲戒処分を検討していきます。いずれも社員の生活に影響するものですので、具体的にどの処分を行うかは、当該社員の抱える問題の重大性や頻度などを考慮して、不相当に重いものにならないように決めていく必要があります。

懲戒処分を経てもなお状況が変わらなければ、問題社員に会社から去ってもらうことを検討しなければならなくなります。もっとも、解雇に踏み切る前に、まずは退職勧奨を行い、当該社員と協議して退職届を出してもらう形での解決を図りましょう。合意退職が難しいようであれば、いよいよ最終手段として解雇に踏み切ることになりますが、不当解雇を主張されるリスクを検討しなければなりません。

(2)管理職のマネジメント能力不足が問題になっている場面

パワハラ傾向が見られるなど、管理職のマネジメント能力不足が問題になっている場面では、本人と部下の社員からのヒアリングを通じて原因を特定することになります。そして、単に管理職としての経験不足が原因と判明したときは管理職研修の実施することで問題解決を図ることになりますし、そもそも管理職としての適性がないことが原因であれば、降格または管理職から外すといった対応が必要になります。もっとも、当該社員が管理職として中途採用した社員であれば、降格には本人の同意が必要であり、同意が得られなければ解雇を検討することになるでしょう。

(3)特定の能力を前提に入社した社員の能力不足が問題になっている場面

募集した職種につき経験者として入社してきた社員や特定の能力があることを前提に採用した社員の能力が不足していた場合は、指導や異動といった対応ではなく、退職勧奨や解雇の検討に入ることが考えられます。このとき、後で紛争になった際に備えて、「採用時に本人が申告していた能力がなかったこと」を立証できるような証拠の作成・収集が必要になります。

2 能力や適格性を欠くことを理由とした解雇の可否

結論として、能力不足の社員を直ちに解雇することは困難です。

というのも、民法上、解雇は自由にできるように規定されているものの(民法第627条第1項)、解雇は労働者にとっては生活を脅かされかねない深刻な影響を与える行為であることから、労働関連の法律による規制が入り、労働者の保護が図られているからです。いわゆる「解雇権濫用法理」といわれるもので、社員の解雇が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇はその権利を濫用したものとして無効とされるというものです(労働契約法第16条)。

解雇の相当性は、こうした能力不足の程度と処分内容の重さとを比較衡量して判断されます。上述の通り、解雇は労働者に深刻な影響をもたらすものですから、やむなく最後の手段としてなされたと評価されることが重要です。そのため、再三の注意・指導や、戒告や減給などの軽微な懲戒処分を経てもなお改善が見られないような場合には解雇が相当であると判断されやすくなります。

もっとも、ここで述べた判断要素や基準は確たるものではありません。紛争になれば裁判例や同業他社における先例なども照らして判断されることになりますので、解雇の有効性を主張するには適切な証拠作成・収集が必要なほか、関連法律の知識や労働問題を取り扱った経験が必須といえます。参考までに、以下では会社が社員をその能力不足を理由に解雇した事例で、解雇が無効と判断された裁判例、および、解雇が有効と判断された裁判例をひとつずつ紹介します。

(1)解雇が無効と判断された裁判例(セガ・エンタープライゼス事件、東京地裁平成11年10月15日決定)

【事案の概要】

業務用娯楽機械、家庭用ゲーム機器の製造販売を行うY会社は、社員Xを人事部採用課、人材開発部人材教育課、CS品質保証部ソフト検査課当に配置した後、所属未定、特定業務のない「パソナルーム」に配置していたが、人事考課平均値の下位10%未満であるXを含む56名に退職を勧告した。Xのみがこれに応じなかったため、Yは就業規則に定める解雇事由(「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」)に該当するとしてXを解雇した。これに対しXは、解雇が無効であるとして、従業員としての地位保全および賃金仮払いの仮処分命令を申し立てた。

【判決の内容】

以下の理由により、本件解雇を権利の濫用として無効とし、賃金の仮払いを認容。

Xは、人材開発部人材教育課において的確な業務遂行ができなかった結果、企画製作部企画制作一課に配置転換させられたこと、同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、外注先会社から苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、加えて、3回行われた人事考課の結果は、いずれも下位10パーセント未満の考課順位であり、Xと同程度の結果であった従業員は、約3500名の従業員のうち200名であったことからすると、Yにおいて、Xの業務遂行は平均的な程度に達していなかったというほかない。

Yの就業規則に定める解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」についてもこれらの事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、能力不足による解雇も、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。
解雇された労働者については平均的な水準に達しているとはいえず、労働者の中で下位 10パーセント未満の考課順位ではあるが、当該人事考課は相対評価であって、絶対評価ではないことから、直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。会社としては、労働者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり、いまだ就業規則に定める解雇事由である「労働能力が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。

(2)解雇が有効と判断された裁判例(日水コン事件、東京地裁平成15年12月22日判決)

【事案の概要】

建設コンサルタント業を営むY会社でシステムエンジニアとして中途採用された社員Xは、通常6か月程度で完了するシステムの改善業務の完了までに通算約4年を要したなど技術・能力・適格性が劣り、また、直属の上司に反抗的な態度を示し、自己の業績不振を他人に責任転嫁するなど人間関係のトラブルを引き起こしていた。そのためYは、配置換え、面談、レビュー、業務中止命令といった措置をとったが、なお改善の見込みがないと判断し、就業規則に定める解雇事由(「職員としての適格性を欠く場合」および「職務に誠意なく勤務状況著しく不良の場合」)に該当するとしてXを解雇した。Xは本解雇がYの解雇権濫用にあたるとして労働契約上の地位確認並びに解雇後の賃金及び遅延損害金の支払いを求めて本訴訟を提起した。

【判決の内容】

以下の理由により、Xの請求をいずれも棄却。

Xは、単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく、著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており、かつ、それは簡単に矯正することが出来ない持続性を有するXの性向に起因しているものと認められるため、Yの就業規則に定める解雇事由に該当する。

XがYの会計システム課に在籍した8年間に通常であれば6か月程度で完了する作業を完成させたこと、その他若干のものはあったとしても、実績や成績が著しく劣っていると言わざるを得ない。

評価業務の経過によると、Y側は何度もXに対し、Xに問題があることを伝えた上で報告・連絡・相談の重要性についても再三再四にわたって指導し、また、上司との間で十分な確認・調整が行われるように配慮していたにもかかわらず、Xには主体的・積極的に情報を入手し、問題点を発見し、これを解決しようとする姿勢に欠け、さらには、指示した者に自ら状況を説明して検討を求めるなどの働きかけもなかったというべきである。このようなXの長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルは、Xの成績不良の原因が、Yの社員として期待された適格性とXの素質、能力等が適合しないことによるもので、Yの指導教育によっては改善の余地がない事を推認させる。

3 問題社員対応には顧問弁護士を

能力・適格性に欠ける問題社員の中には、本人に悪気がないケースもあります。しかし、問題を放置していると、他の優秀な社員のモチベーションが低下し、退職が相次ぐおそれもあるほか、顧客から会社全体への評判に影響を及ぼしかねないため、適切な対応が必要です。

能力不足な社員への対応には、注意・指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇といった段階的なプロセスを踏んでいかなければならず、その中では多くの判断に迫られます。特に、能力不足の社員を解雇することは、他の問題社員対応のケースと比べても、後から紛争へ発展し、「能力不足は会社の教育不足によるものではないか」「当該社員のミスが本人のものであると断定できるのか」「解雇が性急過ぎないか」と指摘されるリスクが高いといえ、慎重な対応が求められることが多いです。

そこで、労務問題を熟知した弁護士へご相談ください。

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。能力不足の社員への対応についても、指導助言、面談への同席といったお手伝いが可能です。

能力・適格性を欠く社員に対する会社の対応に法的な問題があるのか分からない、元社員から解雇無効の審判や訴訟を起こされてしまった、といったお悩みがある札幌市近郊の企業様は、使用者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

 

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