企業に求められるパワハラ対策-パワハラ防止法の概要

企業に求められるパワハラ対策-パワハラ防止法の概要

☑「上司にパワハラを受けているという従業員の相談を受けた」

☑「パワハラ行為に対しどのような措置を取ればよいか分からない」

☑「パワハラが理由で退職したという元従業員から、損害賠償を求める書面が届いた」

…こういったお悩みをお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか? 

近年、ハラスメントという概念は広く社会に浸透しており、中小企業においてもハラスメントに関する問題が表面化するケースが増加しています。その中でも特にパワハラ(パワーハラスメント)については、都道府県労働局等の総合労働相談コーナーに寄せられる相談の中でも、「いじめ・嫌がらせ」の件数が圧倒的に多いほか、厚生労働省が令和2年に行った調査によっても、過去3年間にパワハラの相談を受けたという企業の割合は、「セクハラ」(29.8%)や「顧客等からの著しい迷惑行為」(19.5%)を大きく上回り、48.2%に及んでいます。

こうした背景も後押しして、パワハラに対する法規制がなされることになりました。これが通称「パワハラ防止法」と呼ばれるものです。こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、パワハラ防止法のもとで企業に求められているパワハラ対策のポイントを解説いたします。

パワハラとは

職場におけるパワハラは、職場において行われる、

  • 優越的な関係を背景とした言動であって、
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • 労働者の就業環境が害されるもの

の3つの要素を全て満たすものをいいます。「職場」には、出張先や、打ち合わせ場所、接待の席、…といった労働者が通常就業している場所以外の、実質上職務の延長と考えられるものが含まれます。また、「労働者」は事業主が雇用するすべての労働者を指し、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などのいわゆる非正規雇用労働者も含まれます。また、派遣労働者の派遣先事業主は、自ら雇用する労働者と同様の措置を派遣労働者にも講じなければなりません。

なお、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。

パワハラ防止法とは

企業がパワハラ対策の義務を負う法的根拠は、労働施策総合推進法にあります。同法の令和2年6月の改正で「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」の章が整備されました。この改正労働施策総合推進法が一般に「パワハラ防止法」と呼ばれるものです。もっとも、中小企業については、令和4年3月31日までこれらの措置を講ずることは努力義務にとどまるとすることで、準備期間が設けられています。

【参考・労働施策総合推進法第30条の2(抄)】

 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

第3項の「指針」については、次に説明します。

企業に義務付けられる措置

労働施策総合推進法第30条の2第3項の「指針」について、厚生労働省は、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)により、具体的に企業がとるべき措置の具体例を示しています。

以下、順に見ていきます。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

まず、企業はパワハラの内容、および「パワハラを行ってはならない」、という明確な方針を打ち出し、それを管理監督者を含む従業員に周知・啓発しなければなりません。

こうした措置を講じたと認められる例は、以下の通り指針に示されています。

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景を労働者に周知・啓発すること。

② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場における パワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を記載し、配布等すること。

③ 職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。

また、企業はパワハラを行った者に対して厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則等に規定し、管理監督者を含む従業員に周知・啓発しなければなりません。パワハラに限らず、従業員に対して懲戒処分を行うためには、必ず懲戒事由を就業規則に定めておく必要があるというのは裁判例でも示されているところですので、就業規則の規定に漏れがないか、確認しておきましょう。

措置を講じたと認められる例は、以下の通りです。

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること。

② 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること。

(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

企業には相談対応のための窓口をあらかじめ定めることが求められます。措置を講じていると認められる例は以下の通り指針に示されています。

① 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。

② 相談に対応するための制度を設けること。

③ 外部の機関に相談への対応を委託すること。

 また、せっかく窓口を設けても、パワハラ被害を受けた従業員が委縮してしまい、相談を躊躇してしまったら意味がありません。そこで、上記指針においては、相談者の心身の状況や当該言動への受け止め方等にも配慮して、相談窓口の担当者が相談内容や状況に応じ適切な対応が出来るような措置、および、パワハラ発生の恐れのある場合やパワハラに該当するか否かの判断が微妙な場合であっても広く相談に対応できるような措置をとるよう、企業に求めています。

措置を講じたと認められる例は以下の通りです。

① 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。

② 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。

③ 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。

(3)パワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応

パワハラに関して相談がなされた際、対応を誤れば問題が解決するどころか悪化しかねません。そこで、上記指針は企業に対し、まずは事実関係の迅速かつ正確な確認を図るよう措置と講ずるよう示しています。措置を講じたと認められる例は以下の通りです。

① 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。

② 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第30条の6に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。

そして、こうした確認を経てパワハラが行われた事実が認識された場合は、速やかに被害者および行為者に対し、適正な措置をしなければなりません。適正な措置の例としてしめされているものは以下の通りです。

① 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。

②就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。

③ 法第30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。

さらに、同様のパワハラ被害の再発防止のために、あるいは結果としてパワハラが生じた事実が確認できなかったとしても予防のために、以下のような措置を講じなければなりません。

① 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。

② 労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。

(4)上記措置と併せて講ずべき措置

さらに、厚生労働省の指針は、ここまで述べてきた指針とあわせて講ずべき措置をいくつか挙げています。

まずは、パワハラの相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることに鑑み、相談への対応や事後の対応にあたっては、これらのプライバシーを保護するために必要な措置を講じるとともに、その旨を従業員に周知しなければなりません。ここにいう必要な措置の例は以下のように示されています。

① 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定 め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。

② 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。

③ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。

続いて、パワハラについて相談窓口を利用した従業員や、事実関係の確認等の措置に協力した従業員、都道府県労働局に対する相談・紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行い又は調停の出頭の求めに応じた従業員に対して、そのことを理由に不利益な取り扱いをしない旨を定め、従業員に周知・啓発しなければなりません。そのための措置を講じたと認められる例は以下の通り示されています。

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。

② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。

ハラスメント対応には顧問弁護士をご活用ください

(1)パワハラにより企業が負うリスク

ハラスメントに対しては、「当人同士の問題だから」とお考えの経営者様もいらっしゃるのではないかと思います。ですが、労働施策総合推進法は、措置義務の実効性を確保するための規定をいくつか設けています。

パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務に反している疑いがある事業主は、厚生労働大臣(の委任を受けた都道府県労働局長。以下同じ)より報告を求められ、(労働施策総合推進法第36条第1項)、報告を求められても報告をしない又は虚偽の報告をした際は20万円以下の過料に処されることがある(同法41条)ほか、措置義務に反した事業主が厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合は企業名を公表される(同法第33条第2項)ため、企業のイメージを損ねるリスクが生じます。

さらに、民事上も、雇用管理上の措置を十分に尽くさなければ、企業が使用者責任(民法第715条)や、従業員の安全配慮義務違反を理由とした債務不履行責任(民法第415条)を追及され、多額の賠償を求められるおそれもあります。

(2)リスクの軽減には専門家の援助を

上述のリスクを極力抑えるためには、パワハラに関する相談・苦情を受けたら迅速かつ中立的に事実認定することが重要です。ですが、パワハラ問題はその性質上、双方の話が食い違うことも多く、明らかな証拠があるケースを除き、ヒアリングを重ねても事実認定が難しいことがほとんどです。また、ある程度事実認定が出来たとしても、当該行為がパワハラであるかどうかの評価は、関係法規の知識や裁判例に基づき行われなければならず、企業の担当者が一から判断することは困難といえます。そのため、関連法規や裁判例に通じており、事実認定を含め訴訟等の法的紛争の場における戦術を熟知した弁護士の判断を仰ぐことが重要です。

また、パワハラは当事者にメンタルヘルスの不調をもたらす危険があるほか、周りの従業員にも士気の低下、人材の流失といった形で影響してきます。企業の生産性を向上させるためにも、そもそもパワハラによる被害は予防するに越したことはありません。そして、予防のためには社内でマニュアルや就業規則などの規程を十分に整備し、これらの周知や研修等を通じて従業員に対して教育を行う必要があるほか、これらの活動は、それぞれの会社や社会情勢の変化に応じて継続的に取り組まれなければなりません。このように、継続的に会社の状態を把握し、適切な対策を続けるなら、随時対応が可能な顧問弁護士のご活用をお勧めいたします。

そこで、弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。パワハラ問題への対応についても適宜、企業様からのご相談をお受けすることが可能です。また、損害賠償請求等の紛争につき企業側の代理人としての対応はもちろんのこと、紛争化を防ぐための就業規則の整備や労働環境の調整などについても専門的な見地からアドバイスをさせていただきます。

どのような対応が紛争を防ぎ、紛争化しても企業に有利な効果をもたらすのかは、それぞれの事案によっても異なります。パワハラを巡る対応・予防対策にお困りの札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

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