団体交渉で100%の休業手当支払いを求められたら

団体交渉で100%の休業手当支払いを求められたら

☑「新型コロナウイルスの感染拡大の影響により減産となり、従業員の休業措置をとった」

☑「飲食業を経営しているが、営業自粛要請を受け一定の期間、店を休業した」  

昨今は特に新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、こうした休業措置を取らざるを得なかった企業・法人様も多いのではないでしょうか。

使用者が休業措置を取る場合、法律の定めに従い労働者に対して休業手当を支払うことになります。このとき、社内の労働組合から、あるいは外部の合同労組に駆け込んで、休業中も100%の賃金支払いを求める従業員が出てくることがあります。

そこで、こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、「新型コロナウイルス関連の休業においてどのような場合に休業手当の支払義務が生じるか」という点を検討したうえで、団体交渉にて休業中の賃金100%の支払いを求められたケースにおいて企業がとる対応について説明いたします。

休業手当の支払義務

休業手当とは、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の際に労働者に支払わなければならない手当で、その額は「平均賃金」の60%以上とするよう規定されています(労働基準法第26条)。「平均賃金」は、直近3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額(労働基準法第12条第1項本文)です。ただし、日給制や出来高払制の場合は、労働日あたりの賃金の60%が最低保障額とされています(同条第1項但書)。また、臨時で支払われた賃金および3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は、賃金総額には含めません(同条第4項)。そして、休業手当を支払わなければならない場合に支払いをしないと罰則が科され(労働基準法第120条1号)、休業手当の支払を命じる裁判が出た際には、付加金が加算されることもあります(労働基準法第114条)。

(1)「使用者の責めに帰すべき事由」とは

すでに見たとおり、企業に生じる休業手当の支払義務は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合に発生するものですから、不可抗力による休業の際に休業手当を支払う義務は生じません。

ですが、休業を決める際には従業員の不利益を最大限回避できるように努力するのが雇用者である企業の責任である、との考えから、ここでいう不可抗力による休業といえるためには、

☑事業の外部より発生した事故が原因となる休業であること

☑事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできなかった事故であること

の2つの要件を満たさなければならないと解されています。

(2)新型コロナウイルス関連の休業

それでは、新型コロナウイルスに関連した休業のケースでは休業手当の支払義務は生じるのでしょうか。以下、場合分けをして検討いたします。

①減産や仕事の減少による休業の場合

結論から言えば、「減産等による人員余剰」が不可抗力と判断するのは困難といわざるをえないでしょう。

確かに、新型コロナウイルスの影響で大幅な減産となれば、製造部門の稼働状況には大きく影響するため、工場の生産を停止し、該当部門の従業員を休業させることが考えられます。ですが、他の部門(アフターサービスや管理の担当)が稼働しており、会社の操業そのものが困難とはいえない状況であれば、生産の停止及び製造部門の休業は単にコロナ不況の影響を最小限に抑えるための経営判断としか評価できません。そのため、新型コロナウイルス自体は「事業の外部より発生した」としても、こういったケースでの製造部門の休業は「事業主が…注意を尽くしてもなお避けることのできなかった」休業とはいえないでしょう。

したがって、減産や仕事の減少による休業の場合は、会社は休業手当の支払いを免れず、その補填は雇用調整助成金によって図っていくことになると考えます。

②営業自粛要請に応じた休業の場合

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、業種ごとに政府や地方自治体から営業活動の自粛を求められたケースもあります。

こうした要請に応えるため、あるいは風評保持や従業員・利用客の安全を図るため、といった理由があっての休業ではありますが、この場合も原則的には不可抗力による休業にはあたらないと考えられます。なぜなら、これらの政府や地方自治体からの要請はあくまで協力を求める「お願い」ベースの行為に過ぎず、法的根拠に基づくものではないからです。加えて、企業にとって利用客の安全を守らなければならないことは当然ともいえますし、従業員の生命・身体の安全を守ることも使用者が負う安全配慮義務のひとつであるため、自粛要請によりはじめて強制されることではありません。そのため、上述の要件に該当すると判断することは難しく、個別の事情による例外はあるかもしれませんが、会社が休業手当を支払わなければならないケースが大半だと考えられるのです。

とはいえ、自粛要請に対する判断は各企業によって様々です。一部企業しか自粛しないのであれば自粛の効果自体に疑問が生じかねませんし、自粛に協力した企業だけが負担を被るのは酷なように感じます。もっとも、雇用調整助成金の特例制度(令和3年4月30日まで)は自粛に応じた企業を支援するための制度といえますので、基本的には休業手当の支払ありきで今後の方針を考えていくべきでしょう。

③緊急事態宣言を受けた休業の場合

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、令和2年4月7日には新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されました。この緊急事態宣言下でなされる休業要請等の措置も、収容制限等を除いて基本的に強制力はありません。ですが、要請といえども、単なる「お願い」ベースでの要請であったものに法的根拠を伴うようになるため、その強度は高まっていますし、営業を続けることで企業イメージを損なうリスクも高くなります。そのため、緊急事態宣言下の休業要請には企業への実質的な拘束力があり、各自の事業主の判断で営業を継続することは困難だと評価すべきといえるでしょう。

したがって、緊急事態宣言を受けてなされた休業の要請あるいは指示による休業は、不可抗力による休業と判断され、会社に休業手当の支払義務は生じない可能性が高いです。
以上、新型コロナウイルスに関連した休業のケースでの休業手当の支払義務について検討いたしましたが、それぞれ見解が分かれるところでもあります。また、今後、現場の混乱を避けるために行政側からガイドライン等の指針が示される可能性もあります。各々の企業により結論が異なることもありますので、休業手当の支払で心配な点があれば労働関連法規の専門家による判断を仰ぐようにしましょう。

100%の休業手当を求められた際の注意点

休業手当の支払義務が生じる多くの場合、その支払額は平均賃金の60%の金額となります。したがって、労働組合から団体交渉の申入れがなされ、休業手当として賃金の100%の額の支払いを求められたとしても、企業側はそれぞれのケースでの法的帰結を確認し、慌てずに対応しましょう。そして、対応にあたっては以下に注意しましょう。

まず、正当な理由なく団体交渉を拒否することは不当労働行為として禁止されていることに注意しなければなりません(労働組合法第7条第2号)。そもそも、団体交渉の申入れの際には、団交事項に休業手当の支払い以外の関連事項も含まれることも多いため、やはり交渉自体に応じないわけにはいかないでしょう。

そして、この正当な理由なく団体交渉を拒否することを禁じる労働組合法の規定には、使用者の誠実交渉義務も含まれると解されています。この誠実交渉義務の内容については、「労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することが出来ないとしても、その根拠を示して反論するなどの努力をするべき義務」、及び「合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務」と示した裁判例があります(カール・ツァイス事件・東京地裁平成元年9月22日判決)。したがって、交渉の場には資料の提示などを含め、慎重な説明をするよう注意しましょう。

団体交渉・労働組合対策には顧問弁護士をご活用ください

労働組合は日常的に労働問題に取り組んでおり、団体交渉のノウハウを有しています。そのため、企業側が各種労働法規への理解が不十分で、何も対抗策を用意しないで交渉に臨んでしまうと、組合側に主導権を握られてその主張を甘受しなければならなくなるおそれがあります。また、たとえば団体交渉の申入れがユニオン等の社外の労働組合に加入したごく少数の従業員からのものであったとしても、安易に妥結してしまうと他の従業員にも波及する可能性があります。そこで、団体交渉において企業を守るためには、労働問題に強い弁護士等の専門家の支援を受けることを強くお勧めいたします。

 弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。労働組合への対応についても、労働協約に関する書類の作成、労働者との条件調整などを専門的な知見に基づき行ってまいります。また、団体交渉の申出があった際の対応はもちろんのこと、労働組合から団体交渉をされないために、事前に就業規則の整備や労働環境の調整などについてもアドバイスをさせていただきます。

☑「知らない間に社内に労働組合が出来ていた」

☑「休業補償を巡り、団体交渉を申し込まれたがどのように対応すればよいか分からない」

☑「継続して団体交渉を行っているが終わりが見えない」

こういったお悩みのある札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

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