メンタルヘルス不調社員への対応

メンタルヘルス不調社員への対応

☑以前のような元気がなく、メンタルヘルス不調が疑われる従業員がいる

☑よく分からない理由で遅刻・欠勤を続けている社員がいる

☑メンタルヘルス不調を理由に休職を繰り返す従業員に会社を辞めてもらいたい

こういったお悩みをお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか?

仕事や職場の人間関係の関係で不安やストレスを感じ、うつ病などのメンタルヘルス不調を訴える労働者は増加の一途をたどっています。また、最近は新型コロナウイルス感染症の影響による働き方の変化もその傾向を後押しする要因となっています。そのため、中小企業においても、こうしたメンタルヘルス不調社員への対応は無視できない問題となっています。

そこで、こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、メンタルヘルス不調社員への対応のポイントを解説いたします。

メンタルヘルス不調を理由とした解雇は認められるか

精神的な疾患のある方は、ときに同僚や上司に対し攻撃的な言動をとることもあります。また、無断欠勤や不明瞭な理由での欠勤を続けることもあります。こうした従業員に対し、会社としては、会社を去ってもらいたいという気持ちもあるかと思います。

しかし、解雇は労働者の生活に深刻な影響をもたらす行為です。そのため、法は労働者を保護するため、解雇に「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして当該解雇を無効であると規定しています(労働契約法第16条)。メンタルヘルス不調を理由とした解雇がこのような場合に該当するかどうかは、不調の程度や当該従業員の勤務態度に加え、業務内容、また就業規則の定め方によっても結論が異なると考えられますが、安易に解雇すると、後々解雇の効力を争われるリスクがあるのです。

たとえば、裁判例では、精神的な不調のために加害者集団による監視を受けていると思い込んだ労働者が、これを理由に40日間欠勤したため会社が当該労働者を諭旨解雇した事案で、使用者による労働者の健康配慮措置として「精神科医による健康診断を実施するなどした上で…その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」であり、これらの措置を取らないまま解雇するのは適切でないとして解雇の効力を否定したものがあります(日本ヒューレット・パッカード事件、最高裁第二小法廷平成24年4月27日)。この裁判例はメンタルヘルス不調者への懲戒処分全般に対して上述の措置を常に要求するか否かを明らかにしたものとまでは言えませんが、少なくとも企業としては、メンタルヘルス不調を理由に欠勤を続ける従業員を直ちに解雇するのではなく、段階的な措置を採るべきであることに争いはありません。そこで、次は、解雇前の処分の例として上記裁判例にも挙げられていた休職制度について説明いたします。

 

休職制度の設計・運用

(1)休職とは

休職とは、労働者に労務に従事させることができない、あるいは不適当な事由が生じた場合に、使用者が労働契約を維持したまま労務を免除ないし禁止することをいいます。休職については法律上の定めはなく、どのような場合に休職とするのか(休職事由)は、それぞれの会社の就業規則によって定めることになります。

メンタルヘルス不調の従業員の休職において注意すべき点は、休職制度は労働者に治療に専念してもらうためのものであり、解雇を猶予する機能を有するということです。企業においてはメンタルヘルス不調を理由とする欠勤が一定期間続いたときには当該従業員の解雇も検討したいところかと思いますが、すでに述べたように休職制度を適切に運用した後でなければ、解雇の有効性に重大な疑義が生じかねません。

そこで、就業規則の休職事由について改めてチェックしておきましょう。というのも、一般的に、休職事由は「業務外の疾病により30日間引き続き欠勤があるとき」といった定め方をされていることがあるからです。しかし、メンタルヘルス不調社員による欠勤は断続的なものとなる傾向にあるため、こうした欠勤を繰り返すケースにも対応できる規定となっているか確認しておくことが必要です。もし対応できていないようなら、例えば、「精神または身体上の疾患により労務提供が不完全と認められるとき」といったような休職事由を追加することが考えられます。

また、従業員を休職させる際には、単なる欠勤との区別をし、また後に紛争化しないよう客観的な証拠を残すために、「休職命令書」等の書面により、会社側の意思を示しておきましょう。

(2)診断書の提出

休職の要否およびその後の復職の可否を判断するにあたり、医療に関する知識のない人事担当者が疾病性を判断するわけにはいきません。そのため、従業員には心療内科や精神科への受診を促し、診断書を持ってきてもらうようにしましょう。また、従業員に受診を拒否される場合に備えて、休職にあたっては診断書の提出を義務付ける旨を就業規則に明記しておくとよいでしょう。さらに、就業規則には、会社から受診する医療機関を指定する場合がある旨を記載することも可能だと考えられています。

また、診断書は、不調の従業員について本当に休職が必要な状態なのか、あるいは復職が可能な状態なのかを証明する書類です。万が一会社の対応に不満を持った従業員との間で法的紛争になったとしても、医療の専門家である医師の意見は、裁判所も尊重する傾向にあります。そこで、それぞれの会社の基準に則って復職が可能かどうかを判断できる内容の診断書を作成してもらうことが重要になってきます。ですが、単に病名や、「休職させることが望ましい」「復職は可能」といった結論のみの記載では、本当に休職させるべきなのか、復職させて大丈夫なのか、どのような業務に従事させたらいいのか、本人の意欲はどうなのか、といった点について分からないままで対応しなければならなくなってしまいますので、会社で定める休職・復職の基準や診断書への具体的記載事項(例えば、休業を要する期間や、再発防止のための注意点など)を「依頼書」「案内書」といった書面で担当医師に伝えておくようにするとよいでしょう。

(3)復職までの流れ ~リハビリ出勤制度~

メンタルヘルス不調を理由に長期の休職していた従業員が復職する際には、いわゆる「リハビリ出勤」を認めることで、復職の可否をリハビリ出勤中の状況に基づいて判断したり、スムーズな職場復帰を図ったりすることがあります。こうした「リハビリ出勤」を行うにあたっては、その内容、期間や給与の有無について事前に書面で明確にしておきましょう。

また、復職にあたっては、休職の理由となっている傷病がどの程度まで回復すれば治癒したといえるのか、復職後は軽減業務に就かせるべきなのか、ということがしばしば問題となります。これについては、労働者が休職前と同様の業務に就く程度まで回復していなくとも、配置可能な他の業務について労務を提供できるようであれば、使用者は可能な限り、そうした軽減業務に就かせるべきだとするのが一般的な見解です。したがって、従前の業務以外に配置可能な他の業務の有無を検討せず、軽減業務への就労の機会を与えることをしないまま、復職を認めず当該従業員を解雇した場合には、解雇権の濫用として当該解雇は無効となるおそれがあります。

メンタルヘルス不調を起こさせないための対策

労働契約法では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、使用者に労働者への安全配慮義務を課しています(労働契約法第5条)。そして、この「生命、身体等の安全」にはいわゆる「こころの健康」も含まれます。そこで、企業にとっては、すでにメンタルヘルス不調を起こした従業員への対応と同時に、そもそも社員にメンタルヘルス不調に陥らせないように、パワハラや過重労働などのメンタルヘルス不調をもたらしうる要因を排除することはもちろん、以下のような対策を講じることも重要となります。

(1)ストレスチェック

近年のメンタルヘルス不調に陥る労働者の増加を背景に、メンタルヘルス不調の未然防止のために「心理的な負担の程度を把握するための検査等」すなわち「ストレスチェック制度」の実施が使用者に課せられています(労働安全衛生法第66条の10。ただし、労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務とされています)。

ストレスチェックは、ストレスに関して選択回答式の質問票に従業員が回答し、それを集計・分析する方法で行われます。そして、①検査の結果、一定の要件に該当する従業員から申出があった場合には、医師による面接指導を実施すること、および、②面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講じること、が事業者に義務付けられます。ここにいう就業上の措置の例としては、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、といったものが挙げられます。

(2)ラインケア・メンタルヘルス研修

メンタルヘルス不調者が発生すること自体が企業の生産性に影響を及ぼすため、従業員がメンタル不調に陥る前にその兆候を早期に発見すべきです。その観点から、最近ではラインケアの重要性が注目されています。

ラインケアとは、従業員と日常的に接触している管理監督者が行うケアを言います。管理監督者は部下との接点が多く、一緒に過ごす時間も長いことから、部下の日々の変化に気づきやすい立場にあると言えます。管理監督者が部下の勤務状況を把握しておくことはもちろん、日ごろから従業員に話しかけ、業務に関わる課題を聞き取るなどのケアを行うことで、メンタルヘルス不調の予防や早期発見、その後の会社としてのスムーズな対応につなげることが期待されています。

また、従業員に対するメンタルヘルスの研修を定期的に行うことも、不調の早期発見につながると考えられます。こうした研修を通じて、従業員自身でストレスに気づいてもらい、またセルフケアについての理解を深めてもらうようにするとよいでしょう。

メンタルヘルス不調社員への対応には顧問弁護士をご活用ください

既にメンタルヘルス不調が出ている従業員に対し、仕事を続けさせて症状を悪化させたり、逆に安易に解雇したりすると、損害賠償請求訴訟や解雇無効確認訴訟を起こされるなど重大なトラブルに発展し、会社の責任を追及される事態にも発展しかねません。こうしたリスクを極力抑えるためには、早期の対応が不可欠です。どのような対応が紛争を防ぎ、紛争化しても企業に有利な効果をもたらすのかは、それぞれの事案によっても異なりますので、関連法規や裁判例に通じた弁護士の判断を仰ぐことが重要といえるでしょう。

さらに、従業員自身の健康にとっても、また企業の生産性維持の観点からも、より重要なのは従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあるのは言うまでもありません。そして、使用者としての安全配慮義務を尽くすための体制づくりには、労務管理の専門家のフォローを随時受けることが不可欠です。

そこで、弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。メンタルヘルス不調社員への対応についても適宜、企業様からのご相談をお受けすることが可能です。また、損害賠償請求や解雇無効にまつわる紛争につき企業側の代理人としての対応はもちろんのこと、紛争化を防ぐための就業規則の整備や労働環境の調整などについても専門的な見地からアドバイスをさせていただきます。

メンタルヘルス不調の社員への対応にお困りの札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

 

※メールでのご相談の予約はこちらからご記載ください。

 

 

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