2022年4月から未払残業代の請求額が増える?/定額残業代に注意!

2022年4月から未払残業代の請求額が増える?/定額残業代に注意!

  • 残業代の消滅時効の延長は、会社にどんな影響をもたらすのだろうか
  • 残業代の消滅時効期間が延びるといっても、どの時点の給料から適用されるのか

…こういった疑問をお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか?

2020(令和2)年4月1日に施行された改正労働基準法では、退職手当を除く賃金請求権の時効が2年から3年に延長されました(条文上は「5年」に改正されていますが、附則により当面の間は「3年」と読み替えられることとなっています)。

そして、改正法の施行から2年が経過する2022(令和4)年4月以降、未払残業代にまつわるトラブルの増加が懸念されるところです。こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務トラブルに注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、その理由と会社が気を付けるべき定額残業代(固定残業代、みなし残業代)制の見直しのポイントにつき解説いたします。

改正法の適用対象は2020年4月1日以降に支払われる賃金

消滅時効の起算点は権利行使が可能な時点から、とされています(民法第166条第1項)。賃金請求権でいえば、その賃金を支払うこととされている日、すなわち毎月の給料日から数え始めることになるわけです。

したがって、2020年4月1日に施行された改正法が適用され、消滅時効期間が3年とされるのは、2020年4月1日以降の給料日に支払うべき賃金ということになります。逆に言えば、2020年3月31日までの給料日に支払う賃金の消滅時効期間は2年のままです。

未払残業代の請求額が増え始めるタイミングが「2022年4月」

例えば、毎月15日が給料日の会社では、2020年4月15日支払い分の賃金以降の毎月発生する賃金債権について、3年の消滅時効期間がカウントされはじめます。

つまり、この会社で毎月残業代の未払が発生していた場合、従来は最大2年、すなわち24か月分の残業代請求がなされるリスクが潜んでいたといえますが、2022年4月15日以降は25か月分、26か月分、…と残業代請求のできる従業員がさらに増えていき、2023年4月15日を経過した後は最大36か月分、従来の1.5倍の金額の残業代請求がなされる可能性が出てくることになります。

定額残業代(固定残業代、みなし残業代)制を導入している会社は特に注意!

定額残業代(固定残業代、みなし残業代)導入の紛争リスク

「定額残業代」(「固定残業代」、「みなし残業代」とも呼ばれます)制度とは、毎月一定時間の残業をしたとみなして、各割増賃金(時間外、休日および深夜。労働基準法第37条)を定額で支払うという給与制度で、給与計算の効率化等の効果を見込んで導入されることがあります。

ですが、従業員から会社に対する未払残業代請求がなされる場合、会社が定額残業代制度を導入している事案だと、その制度の有効性が争点とされることがあります。そして、万が一導入していた固定残業代が法的に有効な割増賃金であると認められないと、元々の基本給に含まれる扱いとされ、残業代の単価が上がったうえでの未払残業代額が計算されてしまいます。

したがって、定額残業代制度を導入している会社はでは、未払残業代の紛争が起きた際に賃金債権の消滅時効期間の延長の影響がさらに大きく出てしまう危険があります。いま一度、制度が有効であるかどうか確認しておくとよいでしょう。

定額残業代(固定残業代、みなし残業代)の有効性で揉めないための対策

区分性の要件を充たすための対策

定額残業代については、「手当」として支給されていることが一般的です。「手当」であれば毎月の給与明細にも基本給と別に記載され、従業員にとっても区分されていることが分かりやすいからです。

さらに、その規定の仕方として望ましい例を挙げると、

・定額残業手当は、●条に定める所定時間外手当▲▲時間相当額(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25(※)×▲▲)を支払う。

※時間外労働の割増率は25%とされることから

・定額残業手当は、その全額を●条に定める所定時間外手当の内払として支払う。

といった記載になります。

計算式を記載すればより明確性が増しますし、法定休日や深夜の勤務に対しては別途割増賃金(それぞれ割増率は35%、25%)を支払った方がより紛争の回避につながるといえるでしょう。

一方で、以下の例のように基本給などに定額残業代を組み込むように規定している会社もあります。

・基本給には、●条に定める時間外・休日・深夜勤務手当▲▲時間相当額(割増賃金計算の基礎となる時給単価×1.25×▲▲)が含まれる。

・基本給のうち■万円を、時間外・休日・深夜手当に対する内払として支払う。

ですが、このような規定の仕方だと従業員が普段就業規則を目にする機会が無いと(そのような会社がほとんどかと思います)、残業代が支払われていないと誤解されるケースが増えがちです。裁判所も基本給などに組み込む規定の仕方に対しては定額残業代の区分性の要件について厳しくチェックする傾向にあるので注意が必要です。

対価性の要件を充たすための対策

対価性の要件を充たすか否かについては、定額残業代が時間外労働の対価である旨が雇用契約書等に記載されているかどうかだけではなく、実際の時間外労働の実態も重視して判断されます。そのため、実際に時間外労働がどれくらい発生しているのか状況を調査したうえで何時間の時間外労働に相当する手当を支払うのか、実態と乖離しないように定めておく必要があります。

なお、定額残業代に「職務手当」「営業手当」「業務手当」といった名称を使っているケースも見られますが、出来れば上記の規定例のような「固定残業手当」「固定割増手当」という誤解を受けにくい名称を使用して時間外労働の対価であることを分かりやすくしたほうが良いでしょう。また、こうした手当の名称は従業員が目にしやすい給与明細だけでなく、雇用契約書、さらには求人票などでも全て統一させることがより望ましいといえます。

残業代請求の予防・対応は弁護士法人リブラ共同法律事務所にご相談ください

賃金債権の消滅時効期間が延長することで、特に2022年4月以降は従業員側から見ると証拠収集等の準備ができる期間が延び、請求できる金額も増えることになります。そのため、今後は未払残業代を巡るトラブルの件数がただ増加するだけでなく、それによる会社への打撃もより大きなものとなるでしょう。また、請求額が増えれば弁護士費用を払ってでも代理人を立てて未払を厳しく追及してくるケースも増えると予想されます。

そこで今のうちに、誤った制度設計や運用がなされていないか、特に定額残業代が法的に有効な割増賃金の支払いとなっているか、専門家によるチェックを受けることが将来の大きなリスク回避につながります

そこで、弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。残業代をめぐるお悩みに対して、現状の雇用契約書および社内規程等の問題点の洗い出しや改善のためのアドバイスをさせていただきます。また、万が一労働審判や訴訟に至った場合には、企業の代理人として対応いたします。

「社内で規定を作成したが法的に問題が無いか」、「自社で固定残業代を導入すべきか分からない」、「残業代請求の審判や訴訟を起こされてしまった」、といったお悩みがある札幌市近郊の企業様は、経営者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

 

 

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