従業員による引き抜きは違法なのか?

 

  • 退職予定の従業員が他の従業員を転職先に勧誘している
  • 独立した元従業員が今残っている従業員を引き抜こうとしているが、黙って見ているしかないのだろうか

こうした行為は、引き抜かれた側の企業にとっては時間をかけて育ててきた人材だけではなく、その従業員の持つ顧客の流失にもつながりかねないものであり、生じる損害は計り知れません。

ですが、そもそも労働者には職業選択の自由が憲法上保証されていますし、終身雇用という慣行が崩壊した現在では、転職すること自体は珍しくもありません。また、引き抜きという行為も他社の優秀な人材により良い条件を提示して転職を促すという点で、正当な企業活動のひとつです。そのため、全ての引き抜き行為が違法とされるわけではないのです。

こちらでは、札幌市近郊で企業側の労務問題に特化している弁護士が、従業員による引き抜きの違法性や、引き抜きに対してとりうる対策についてご説明いたします。

引き抜きの違法性の根拠

(1)在職中の引き抜き

労働者には、使用者(会社)との雇用契約を結ぶことで、契約に付随する信義則上の義務として、使用者の利益を不当に侵害してはならない、という誠実義務が生じます。この誠実義務の具体的な内容として、「競業避止義務」というものがあります。競業避止義務とは、文字通り労働者に「同業他社への就職」「同業他社での副業」「営業秘密を利用した競合企業の設立」などをしないように求める義務を言います。多くの企業で雇用契約や就業規則の内容に組み込まれているものですが、明文化されずともこれに反して企業に損害をもたらす従業員の行為は違法性が認められ、損害賠償責任が生じうることになります。

もっとも、引き抜き行為に関しては、先述の労働者の職業選択の自由にも配慮しなればなりません。そこで、裁判例では「単なる転職の勧誘を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合」に限定して、違法性が認められています(東京地裁平成3年2月25日判決、ラクソン事件)。

引き抜き行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかは、転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇、引き抜かれた人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)諸般の事情を総合考慮して判断されます。

例えば、上記裁判例の事案では、引き抜きを行った従業員が元の会社の取締役兼営業本部長という役職で売り上げの80%をも占める業績を上げるなど経営上極めて重要な地位にあったこと、移籍先の会社と事前に計画のうえ事情を一切告げずに、移籍先会社の費用負担で部下を慰安旅行と称して温泉地のホテルに連れ出し2~3時間かけて移籍を説得していたこと、最終的に20人を超える部下を引き抜いていることから、もはや適法な転職の勧誘とは言えないとして引き抜きの違法性が認められています。

(2)退職後の引き抜き

競業避止義務は、雇用契約に付随する義務であるため、退職後については必ずしも同様に課されるものとはいえません。ですが、どのような引き抜き行為でも許されるわけではなく、在職中のケースと比べても特に社会的相当性を逸脱するような方法で行われた場合にはやはり違法性が認められ、会社に対する不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。

例えば、ライダー(配達員)約20名の規模でバイク便の営業等を行っている会社でライダーや内勤者計12名が次々と退職し、そのうち大部分の者を発起人として新たな会社を設立した事例で、裁判所は「元従業員等の競業行為が、雇傭者の保有する営業秘密について法の定める不正取得行為、不正開示行為に該当する場合はもとより、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇傭者の顧客等を奪取したとみられるような場合、あるいは雇傭者に損害を加える目的で一斉に退職し会社の組織的活動等が機能し得なくなるようにした場合等」に、不法行為を構成することがあると示しています(東京地裁平成6年11月25日、フリーラン事件。もっとも、この事案では原告会社の代表者が不合理な理由で責任者を降格させ収入条件を変更したこと等から、従業員らが会社に嫌気がさしており自発的に退職していたことを主な理由として、被告らの行為の違法性は否定しています)。

また、当該従業員との合意があり、かつその合意に合理性があれば、退職後に競業避止義務を負わせることも可能とされています。合理性の有無は、

  1.  競業を制限する必要性
  2.  制限を課す期間
  3.  制限の場所的範囲
  4.  競業制限を課す職種
  5.  当該従業員の在職中の地位
  6.  制限に対する代償の有無(退職金などの金銭の支払い)

といった要素を総合的に考慮し、公序良俗に反しないかどうか、という視点で判断されます。競業避止義務を課したいのであれば、上記の要素から制限の範囲をなるべく狭く限定すると良いでしょう。

引き抜きの予防策

ここまでで述べた通り、引き抜きにより会社が損害を被ったときには、従業員に対し損害賠償請求ができます。ですが、損害額や引き抜きとの因果関係は会社が立証しなければならないなど紛争の決着に至るまでには多大な手間と時間がかかりますし、請求が認められて一定の賠償金を得たとしても、会社が負ってしまった被害を十分に回復できるとは限りません。実際の裁判例においても、「新たな従業員を補充するまでの期間、当該従業員が稼いでいたであろう利益(逸失利益)」についての賠償は認めても「当該従業員に費やしてきた教育研修費用」や「代わりとなる従業員の採用コスト」は会社の損害として認めない傾向にあります。

そこで、引き抜き行為自体を予防するために会社が事前に取れる対策をいくつか紹介いたします。

(1)就業規則上の対策:懲戒事由の定め

まず、就業規則に競業避止義務について明記するとともに、引き抜き行為を懲戒事由として定めておくことが考えられます。

というのも、懲戒解雇、出勤停止、降格、減給、けん責、戒告といった懲戒処分についてはそれぞれ懲戒内容と懲戒事由を契約内容に定めておかなければ行うことが出来ないからです。

(2)退職金規定上の対策:減額事由の定め

また、退職金を支給する会社では、退職金規定において引き抜き行為を退職金の減額事由として定めておくことも有用です。

ここで注意すべきは、あくまで「減額」事由であり、「不支給」とする旨の記載は避けた方が良いという点です。そもそも、退職金はこれまでの功労に対する報償や賃金の後払いなど、複数の性質を有するものですので、引き抜き行為を理由に退職金全額を不支給とすると後に労働審判や訴訟で争われた際に従業員の行為と均衡を欠く過大に不利益な扱いとして規定自体の効力を否定されることにもなりかねないからです。

(3)雇用時、退職時の対策:誓約書の作成

実務上は、従業員の入社時に引き抜き行為が禁止されることを明記した誓約書を作成し、署名してもらうという手段をとっている会社も多いです。署名してもらう際に禁止される行為や違反した場合の制裁(懲戒処分、損害賠償請求)についても説明し、理解してもらうようにしましょう。加えて、引き抜き行為の社会的相当性は当事者の社内に占める地位も重要な考慮要素に入ることから、昇進時や役職就任時などにも同様の書面を交わしておくと良いでしょう。

また、先述したように、退職する従業員に対して相当な範囲内で競合を禁止する旨の誓約書を作成することもできます。

引き抜きへの対応は弁護士にご依頼ください

引き抜きの違法性の判断は事案ごとに大きく異なり、行為の態様に応じて様々な事情を考慮しなければ損害賠償請求が認められるかどうかの判断がつきません。また、そもそも引き抜き行為は会社に悟られないよう秘密裡に行われることが普通であり、引き抜かれた従業員や顧客などの当事者が会社のために証言をしてくれることにも期待できません。

そのため、引き抜きの問題については、労働問題に関する専門的な法的知識と経験を積んだ弁護士に相談のうえ、対応について慎重に検討することが重要です。

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、引き抜きにまつわるトラブルについても、関係者からの聞き取り、証拠収集、書面作成といった準備から実際の交渉や訴訟対応まで企業様を全面的にサポートいたします。また、労務問題に特化した顧問契約をご用意しておりますので、日ごろの引き抜き防止策について企業様からのご相談をお受けすることはもちろん、トラブルを防ぐための就業規則の整備や労働環境の調整などについても専門的な見地からアドバイスをさせていただきます。

従業員の引き抜きにお悩みの札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

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