不当解雇を主張された場合の企業側の対応

不当解雇について企業からいただくご相談の例

不当解雇に関する企業からのご相談では、特に以下のような事例が多く寄せられます。

「能力不足を理由に解雇したが、従業員が不満を持っている」

「人員削減のための整理解雇を行ったが、従業員から訴えられそう」

「懲戒解雇を行ったが、その妥当性が問われている」

 

こうした状況では、従業員が「不当解雇」を主張し、労働審判や訴訟に発展するリスクが生じます。対応する企業としては解雇の法的根拠を適切に説明できるようにすることが重要です。

本記事では、不当解雇の代表的なケースや、それに対する適切な対応について、労務問題に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が解説します。

「不当解雇」による影響や企業が負う責任

解雇は労働者の生活を左右する重大な行為であり、企業が行う際には法律で多くのルールが定められています。つまり解雇には法的なリスクが伴う、ということであり、訴訟になれば多大な時間や費用をかけなければならなくなるほか、不当解雇と認定された場合には以下のような結果が生じる可能性があります。

 

損害賠償や未払賃金の請求

:従業員に対して、不当な解雇により精神的苦痛を被ったとして損害賠償(慰謝料の支払い)を求められることがあります。なお、経済的不利益の補填については、実務上は解雇が無効であり雇用関係が継続していたとして、それまでの未払賃金を請求されることが一般的です。

 

✅解雇した元従業員の復職

:不当解雇を争う従業員側の意向として「一度揉めた会社に戻りたくはない」というケースも多いのですが、中には従業員が職場への復帰を希望する場合があります。これに対して企業は原則復帰を拒むことは出来ず、職場環境などを考慮してどうしても従業員に戻ってきて欲しくないと思うときは、解決金の支払いなどを提示のうえ改めて退職に応じてもらう必要が生じます。なお、復職させる際には当然ながら従業員の同意を得ずに以前より給与を減らしたり配置転換をしたりすることは出来ません。

 

✅企業の評判への影響

:不当解雇が公に知られると、企業が社会的な批判にさらされ、評価や信用を落とす恐れがあります。取引先との関係の悪化や、人材の流失、採用活動の停滞などを経て企業の事業継続に関わる問題にもつながりかねません。

 

不当解雇にあたるケースの例

(1)十分な指導をせずに能力不足を理由に解雇するケース

客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当でなければ解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。従業員の能力不足を理由に解雇を行う場合に、事前に従業員に対して十分な指導や教育がされなかったケースは「合理的な理由」を欠く、あるいは「社会通念上相当」ではない解雇とされる典型例の一つです。

 

【裁判例:セガ・エンタープライゼス事件・東京地方裁判所平成11年10月15日決定

人事考課順位が下位10パーセント未満に位置する従業員を就業規則の「労働能力が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして行われた解雇の効力が争われた事例です。

この決定では会社が「債権者(当該従業員)に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もある…(実際には、…このような教育、指導が行われた形跡はない。)」、また、「雇用関係を維持するための努力をしたものと評価するのは困難である」と評価され、本件解雇は解雇権の濫用に該当し無効と判断されました。

 

【裁判例:日本IBM事件・東京地方裁判所平成28年3月28日判決

業績不良を理由に突然解雇された従業員らがその解雇の効力を争った事例です。

この判決では本件解雇が「現在の担当業務に関して業績不良があるとしても、その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格、一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた」として、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、解雇権の濫用として無効と判断されました。

 

 

(2)人員削減の必要性が乏しいにもかかわらず整理解雇したケース

解雇の中でも企業の経営上の理由で行われるものを「整理解雇」と呼びますが、整理解雇は従業員側に帰責事由のない解雇ということもあり、その正当性は「整理解雇の4要件(4要素)」と呼ばれる以下の基準のもとで厳しく判断されます。

  • 人員削減の必要性:人員を整理しなければならない企業経営上の十分な理由があるか
  • 解雇回避の努力:他の手段(希望退職の募集、配置転換など)で解雇を回避しようとしたか
  • 人選の合理性:解雇の対象者を決める基準が客観的・合理的で、かつ公正に運用されたか
  • 解雇手続の妥当性・相当性:従業員の納得を得るために十分な説明や協議が行われたか

 

【裁判例:東京地裁平成20年5月16日判決】

経営状態の悪化に伴い期限の定めのないパート従業員に対して行われた整理解雇の効力が争われた事案で、上記4要件(4要素)に照らして検討がなされました。

裁判所は、被告会社について解雇に至るまでの5年程の間に粗利の減少は認められるものの営業利益についてはむしろ増加傾向にあることから①人員削減の必要性は認めず、また、会社が積極的な希望退職募集や退職勧奨を実施していないことから②回避解雇の努力も認めませんでした。③の人選の合理性については、原告従業員の担当職務が他の従業員で代替が十分な業務であることから「一定の合理性があることは否定できない」、また、雇用形態がパート従業員であった点についても正規従業員との差異は「人選の際の理由の一つとなりうる」と会社にとって肯定的な評価もしましたが、解雇に際して事前の説明、協議を一切行っていないことから④の手続の相当性を欠くことは明らかである、と指摘しました。以上の検討を踏まえて、本件の整理解雇は解雇権の濫用にあたり無効と判断されました。

 

(3)軽微な非違行為にもかかわらず懲戒解雇したケース

従業員が重大な規律違反や不正行為を行った場合に選択されるのが「懲戒解雇」であり、軽微なミスや違反に対してこの懲戒解雇を行うことは、不当解雇と見なされる可能性があります。懲戒処分を行うには就業規則に懲戒事由が明記されていることが必要ですが、その規則が法に適合しているかどうかも確認しなくてはなりません。

 

【裁判例:横浜地裁令和元年10月10日判決】

スーパーマーケットで勤務する従業員が商品を会計せずに持ち帰ったことがなされた解雇の効力が争われた事案です。この事案では持ち帰り行為が1回の行為であり、その外形自体、精算を失念して商品を持ち出してしまったという本人の説明と矛盾せず、原告従業員に窃盗の故意があったことを積極的に裏付けることは出来ないと指摘し、「少なくとも、故意による窃盗行為よりも比較的軽微な違反行為に対し、不相当に重い処分がなされたものといえる」と判断しました。そのため懲戒解雇(および予備的になされた解雇の意思表示)は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効とされました。

 

不当解雇を主張された場合の対応

従業員との話しい

不当解雇を主張された場合、最初に行うべきは従業員との話合いです。話合いの中で、解雇の理由を再確認し、可能な限り早期に解決する努力が求められます。企業側が一方的に主張するだけではなく、従業員の意見を尊重し、円満な解決策を模索することが大切です。

 

✅書面の共有:解雇の理由や経緯を文書にまとめて労働者と共有する

✅妥協案の提示:退職金の上積みや再就職支援を提案することで、紛争の長期化を避ける

 

労働審判

話し合いで解決しない場合に、従業員から地位確認の労働審判を申し立てられることがあります。

労働審判は、訴訟と比べ迅速かつ低コストで労使間の紛争解決を目指す制度であり、裁判官1名と労働者・使用者側の審判員2名で構成される労働審判委員会とともに話合いによる解決が試みられますが、話がまとまらなければ当事者の権利関係と手続の経過を踏まえ、裁判所が判断(労働審判)を下します。

 

✅早期解決に向けて:労働審判は通常3回以内の審理で結論が出るため、裁判に比べて迅速な解決が期待できます。その分、答弁書の提出や期日の想定問答などの準備もスピーディーに進める必要があります。

✅労働審判に不服があるとき:労働審判の結果に納得できなければ異議申立てをすることができます。異議申立てにより審判は効力を失い、訴訟手続に移行します。

 

訴訟

話合いや労働審判で解決が見込めないケースでは、訴訟に発展することがあります。訴訟では、証拠や証言をもとに裁判所が最終的な判決を下します。訴訟は時間がかかり、企業にとっても負担が大きいですが、法的に確定した解決策を得られるというメリットもあります。訴訟は長期化する可能性が高いため、早期に弁護士のサポートを受けることが望ましいです。

 

✅主張立証のための準備:訴訟に備えるためには、解雇理由の正当性を示すために以下のような証拠を十分に用意することが必要です。

・解雇の理由(業績不振、能力不足、非違行為)に関する証拠

・手続が適正に行われたことを示す証拠(改善指導の記録、解雇通知書など)

・社内規定や就業規則の整備・周知に関する証拠

 

解雇を行う企業に弁護士がサポートできること

企業が不当解雇の主張を退けるためには、解雇理由や手続の適正性を示すための詳細な証拠が求められます。従業員とのやり取りを記録し、社内規定に従って適切に解雇を進めたことを証明できるよう、事前に労働審判や訴訟といった法的手続に備えておくことが重要です。

そして、解雇を考えている場合、解雇後に不当解雇を主張された場合にはなるべく早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

 

退職勧奨の際に弁護士法人リブラ共同法律事務所がサポートできること

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。解雇トラブルに対して、顧問弁護士として以下のようなサポートを行います。

(顧問弁護士によるサポートの例)

✅事前相談:解雇を行う前に、法的リスクを最小限にするための助言

✅従業員との交渉への準備・同席

✅労働審判や訴訟の代理:労働審判や訴訟における全面的なサポート(証拠収集、提出書面作成、期日出席)

✅解雇手続きの見直し:解雇に関する社内規定の適正化やプロセスの見直し

 

顧問契約プランについてはこちらをご覧ください。>>

 

解雇についてお悩みの際は弁護士法人リブラ共同法律事務所にご相談ください

解雇に踏み切るとき、そして不当解雇を主張されたときには、企業は大きなリスクを抱えることになります。そこで弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に注力し豊富な経験を持つ弁護士が、迅速かつ的確な解決策を提供いたします。日常的な法務コストを最小限に抑えるためにぜひ顧問弁護士をご活用ください。

各企業様・法人様のニーズに沿ったサービスを提供するため、顧問契約のプランは複数ご用意しております。「どのようなサポートが必要か分からない」という段階でも、まずはお気軽にお問い合わせください。

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