職務怠慢な社員を辞めさせたい|問題社員を辞めさせる方法とは
☑「仕事中にスマホをいじってネットサーフィンをしている」
☑「手が空いているのに自分の仕事を同僚に押し付ける」
☑「外回りに出ているはずが、パチンコ店にいたのを他の社員に目撃されている」
といった職務怠慢な社員の話を耳にすることがあります。
企業としては、こうしたいわゆる「問題社員」には辞めてもらいたい、とお考えになることもあるかと思います。
そこで、こちらでは、このような職務怠慢な問題社員を辞めさせるための対応につき、使用者側の労務問題に注力する弁護士が説明いたします。
Contents
1 問題社員とは
「問題社員」は法律用語ではありませんが、上記の職務怠慢な社員だけでなく、他にも業務に必要な能力が不足している、協調性に欠ける、無断欠勤や遅刻を繰り返す、業務命令を拒否する、ハラスメントや社内での不倫を行う、などといった会社にとって問題視される社員をまとめて指す言葉です。
これらの問題行動はその社員本人だけの問題ではなく、次に述べる通り会社にとっても悪影響をもたらします。そこで、会社が策を尽くしても改善されなければ雇用の継続が困難になると判断せざるをえないでしょう。
2 問題社員を辞めさせるべき理由
(1)職場環境の悪化、周囲の社員の離職
特定の社員による問題行動が繰り返されると、フォローをする周囲の社員たちの精神的なストレスの増加、社員間の不和につながります。また、問題行為の内容がハラスメントなどの職場内トラブルであれば、他の従業員が追い詰められてしまいます。このように問題社員が職場環境を悪化させることで、他の社員のモチベーションが低下したり、退職してしまったりするおそれも高まります。必要な人員までも不足して取り返しのつかない事態に陥ってしまわないよう、問題社員への迅速な対処が不可欠です。
(2)会社の生産性低下
問題社員の存在による、他の社員のモチベーション低下はチームの業務の停滞、ひいては会社全体の業務効率を大きく下げ利益が落ち込むことにもつながります。また、使用者目線に立てば、問題行動を繰り返す社員に対して他の社員と同じ給料を支払うことは、無駄な人件費を発生させているともいえます。会社全体の生産性の維持・向上のためにも問題社員への対処は早急に行うことが求められます。
(3)金銭的なリスクの発生
問題社員を放置することで会社が被る金銭的なリスクの内容としてはまず、問題社員が原因で取引先等に迷惑をかけてしまうことで生じるものがあります。もし取引の中止などを招いてしまえば、会社への経済的な打撃、そして信用の低下により事業の継続そのものに影響が出る事態になりかねません。
また、問題社員に過度な被害者意識がある場合に生じる金銭的なリスクもあります。たとえば問題行動に対して上司から業務上のアドバイスや軽い注意がなされたことについて、問題社員側が精神的苦痛を感じたとして会社に対する損害賠償を求める、といったトラブルの発生が考えられます。もし賠償が認められなかったとしても会社がその対応に大きな負担を強いられることに変わりはありませんし、最悪の場合には問題社員が会社の悪評を拡散して企業としての信用問題に発展するおそれもあります。そのため問題社員に対しては毅然と対応する姿勢を示す必要があります。
3 問題社員を辞めさせる際の対応の流れ
後でも繰り返し述べることになりますが、問題社員に対し「直ちに会社から出ていって欲しい」と思っても、すぐに解雇することは避けるべきです。まずは基本的な流れをご紹介します。
(1)問題行動への注意・指導からスタート
問題社員に対しては、まずは日頃の業務内で注意・指導を行うことで改善を図ります。
問題行為の原因が職場や待遇への不満、健康面や家庭の事情など、社員本人の責任だけにとどまらず、会社の配慮により改善する可能性もあるので、注意・指導の場といってもまずは当該社員の話をよく聞くことが大切です。
そして、この段階では見落とされがちなのですが、後に会社の処分の効力を巡る法的紛争に発展することも想定して会社の対処については客観的証拠を残すこと、つまり口頭での注意で完結させないことが重要です。注意・指導を行った記録については「問題行動が業務にどのように影響したか」という点も記して、書面で保存しましょう。
また、注意・指導はその場限りの対処で終わらせず、その後の経過観察も大切です。一定の期間を経ても改善しない場合、問題行動が悪質な場合には繰り返し注意をし、自身の言動を会社が問題視していることを明確に伝えておく必要があります。
(2)「辞めさせる」前に配置転換や軽微な懲戒処分を選択
注意・指導後も改善が見られず、何らかの処分をせざるを得ないとしても、まずは配置転換や軽微な懲戒処分を行ない、様子を見ましょう。
(軽微な懲戒処分の例:✅戒告 ✅けん責 ✅減給 ✅出勤停止 ✅降格)
このような段階を踏むことには、処分を通して当該社員に問題行動を自覚させ、再び改善を促すという目的があります。また、最終的に解雇に踏み切ることになったケースにおいては、会社が改善の機会を再三与えてきたことが解雇の正当性を主張する際の大切な要素になります。
配置転換を選択する際には「退職に追い込む目的」で行われたものだと評価されたり、不当に社員の仕事を取り上げたりするものにならないよう、その内容にも注意を払って検討する必要があります。
(3)「退職勧奨→解雇」の順で検討する
以上の対応を経ても問題行動が改善しなければ、残念ながらいよいよ問題社員に会社を去ってもらうことを検討する段階といえます。ですが、まずは解雇ではなく退職勧奨が出来ないか考えましょう。社員側から退職届を提出してもらうことになるため、後から法的紛争に発展するリスクを抑えられるからです。
退職勧奨を行っても決着がつかない場合の最終手段が(懲戒)解雇です。解雇に至ったときには、後に訴訟等で不当解雇を主張されたとしても企業の正当性を立証できるように、これまでの注意・指導、懲戒処分を適切に行なってきたことを示す証拠を準備しておきましょう。
以下では、職務怠慢な問題社員がいるケースについて、解雇や退職勧奨の際に押さえておくべき点をもう少し詳しく解説してまいります。
解雇による解決|職務怠慢な社員(問題社員)であっても解雇は慎重に
(1)解雇権濫用法理
まず、職務怠慢な問題社員を辞めさせるといっても、直ちに解雇することは困難と言わざるを得ません。
というのも、民法上、解雇は自由にできるように規定されていますが(民法第627条第1項)、解雇は労働者にとっては生活を脅かされかねない深刻な影響を与える行為であることから、労働関連の法律による規制が入り、労働者の保護が図られているからです。
その代表的なものが、いわゆる「解雇権濫用法理」といわれるもので、社員の解雇が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇はその権利を濫用したものとして無効とされてしまいます(労働契約法第16条)。職務怠慢を理由に社員を解雇するには高いハードルがあり、解雇しても無効と判断されるおそれもあるのです。
(2)解雇が認められる客観的合理性および相当性
解雇の客観的合理性を確保するには、社員の職務怠慢の事実や程度を会社が立証できる資料を用意しておくことが重要です。例えば、無断欠勤や遅刻が多い社員の場合、出勤簿やタイムカード等の記録をとっておくことが考えられますし、職場離脱や勤務不良が見られる社員には、営業日誌をつけるようにしておくことやPCの閲覧履歴、SNSのログイン履歴を押さえておくことも有効です。また、職務怠慢行為に対する注意・指導を書面やメールにより行っておくことで、客観的証拠として残すことが出来ます。
また、解雇の相当性は、こうした職務怠慢の内容や程度と処分内容の重さとを比較衡量して判断されます。上述の通り、解雇は労働者に深刻な影響をもたらすものですから、やむなく最後の手段としてなされたと評価されることが重要です。そのため、再三の注意・指導を行ったり、戒告や減給など軽い懲戒処分を科したりしてもなお改善が見られないような場合には解雇が相当であると判断されやすくなります。
普通解雇でなく懲戒解雇とする場合は、会社によっては退職金の全部または一部が不支給となるなど、労働者側への不利益がさらに大きいため、相当性はより厳格に判断されます。労働者の行為に企業秩序を乱すような悪質性が認められなければならず、普通解雇で足りるようなケースで懲戒解雇をしても、懲戒解雇としては無効と考えられます。また、法律上、懲戒解雇にあたっては、就業規則に懲戒解雇事由が具体的に列挙・周知されていること、かつ、当該社員の行為がどの解雇事由に該当したかを明示することが要求されます。さらに、就業規則で懲戒委員会の討議等の所定の手続を経ることが要求されている場合には、当該手続が順守されなければなりませんし、そのような手続が定められていない場合も、本人からの弁明の機会が与えられていなければ相当性を欠くものと評価されやすくなります。
もっとも、ここで述べた判断要素や基準は確たるものではありません。紛争になれば裁判例や同業他社における先例なども照らして判断されることになりますので、解雇の有効性を主張するには関連法律の知識や労働問題を取り扱った経験が必須です。
5 問題社員を解雇する際の手順~不当解雇にならないためのポイント
繰り返しになりますが、職務怠慢な社員などの問題社員に対して安易に解雇を選ぶべきではありません。他の手段を尽くしてもなお問題行動が改善しないときに解雇に進むこととなりますが、その際にも正しい手順を踏むことが不当解雇と訴えられないためのポイントです。
(1)就業規則の解雇事由を確認
法律上、解雇事由は就業規則に必ず記されていなければならず(労働基準法第89条第3号)、就業規則上の根拠のない解雇は不当なものとして無効になります。また、解雇の際には社員の問題行為がどの解雇事由に該当するかを明示しなければなりません。そのため、まずは就業規則を確認し、どの解雇事由により解雇をするかを検討することになります。
(2)弁明の機会を与える(懲戒解雇の場合)
懲戒処分として解雇する場合には、その懲戒解雇が社会通念上相当でなければなりませんが(労働契約法第15条)、その相当性の有無を判断するための一事情として、「会社が弁明の機会を与えたかどうか」という点があります。
すなわち、懲戒解雇の際には当該社員に解雇を検討している旨とその理由を伝えて、本人の言い分を聞く場を設けていないと後で不当解雇と主張されるリスクを上げかねません。
(3)解雇予告通知書・解雇通知書を作成する
解雇をする場合は、原則として解雇日の30日前までに予告しなければなりません(労働基準法第20条第1項)。ただし、解雇予告手当を支払ったとき等には即日解雇も可能です。
解雇通告の方法には法律上の定めがあるわけではないのですが、口頭で伝えるだけだと後で「突然解雇された」「理由を聞いていない」といったトラブルになるおそれがあります。当該社員にはっきり伝わっていないと不当解雇と判断されるリスクも高まるので、解雇通告の際は解雇予告通知書や解雇通知書を渡し、その日付とともに会社による解雇の意思、就業規則上の解雇の根拠規定を記載しておくことが一般的です。
(4)解雇通告を行う
多くの場合は当該社員を他の社員の目につかない個室に呼び出し、解雇を伝えることになるでしょう。口頭での説明に加え、作成した解雇予告通知書・解雇通知書を渡します。このとき、通知書には社員から受領の署名をもらい会社側でもコピーを保管できるようにしましょう。
もし当該社員が既に出勤していない場合や署名を拒否された場合には配達証明付きの内容証明郵便で郵送するとよいでしょう。
6 解雇によらない解決
(1)合意の上で辞めてもらうことを目指して―退職勧奨
解雇は当該社員の意思に関係なく使用者(会社)の一方的意思表示により行える行為であるため、解雇後に労働審判や訴訟で解雇の有効性を争われるおそれがあります。裁判実務上、上述した解雇の客観的合理性や相当性については会社側が立証しなければならず、紛争になると非常にコストがかかります。
解雇による上記のリスクを避けるために、労働者自らの意思表示により退職をしてもらう方法、すなわち退職勧奨による円満退職を目指しましょう。ただし、あくまで退職の勧奨であり、後で強制されたと言われないように進めなければなりません。例えば、退職に応じない場合の不利益を強調しないで、面談の回数が多くなったり、1回あたりの時間が長くなったりしないように注意しましょう。また、可能な限りで、退職時期などについて当該社員の同意を得やすい条件を提示することも考えられます。そして、後の紛争を防ぐために、退職について合意できた時には必ず書面で退職届を提出してもらうようにしましょう。
退職勧奨についてはこちらの記事もご覧ください。
(2)その他の方法
そもそも、職務怠慢な社員が意欲を取り戻し、パフォーマンスを向上させてくれれば、会社と社員の双方に追って最良の結果であることは言うまでもありません。労働者側としても、会社に解雇されようとしている、退職させられようとしていると感じれば、態度を硬化させることが多いものです。
そこで、職務怠慢な社員に対しては、会社を去ってもらうのではなく、再度育成するという考え方もあります。まずは当該社員に問題点を率直に伝えたうえで、より軽微な懲戒処分を選択して改善を促す、配置転換等の人事権を行使し別の職種での適性を判断する、など取るべき方法は事案によって様々です。
7 問題社員を辞めさせたい・問題社員対応には顧問弁護士を
職務怠慢な社員などの問題社員を辞めさせるまでには、注意・指導、配置転換・降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇といった段階的なプロセスを踏んでいかなければならず、その中では多くの判断に迫られます。ですが、もし対応を間違えて紛争化すれば企業にとって大きなコストが生じますし、周囲の社員のモチベーション低下にもつながりかねません。
そこで、労務問題を熟知した顧問弁護士をご活用ください。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。職務怠慢な社員への対応についても、指導助言、面談への同席といったお手伝いが可能です。
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