建設業

1 建設業が抱える労務リスク

2019年4月の法改正により労働時間の上限規制が強化されるなどの働き方改革が進む中、建設業界ではなお、他産業と比較して長時間労働が常態化していることが問題視されています。そのため、改正法の施行も建設業界に限っては2024年4月まで猶予されているというのが現状です。
  
もっとも、建設業においては、従業員が自宅から直接現場に向かうことも多く、始業や終業の時刻、残業や休憩の時間を把握しづらいため、労働時間の計算や有給休暇の取得状況の把握が難しいという特徴があります。
  
しかし、それを理由に従業員の勤怠管理を適切に行わないと、のちに残業代請求を受けるリスクも高まります。元従業員が退職した会社に対して未払残業代の支払いを求めて訴訟を提起するケースは近年になって多発していますが、特に長時間労働になりがちな建設業界においては、たとえ一人の元従業員からの請求であってもその請求額が数百万円単位にのぼることもあります。このような高額な残業代請求を受けてしまうリスクが、会社の経営を脅かしかねないのです。
  
従業員の労働時間や残業代の削減を目指すなら、固定残業代制度を導入することが考えられます。固定残業代制度とは、毎月一定時間の残業をしたとみなして、各割増賃金(時間外、休日及び深夜)を定額で支払うという給与制度です。事務作業の負担が軽減する、毎月の支払賃金が安定する、といった効果が見込めるため、時間外労働が慢性的に発生する建設業界でも導入が進んでいる制度です。
  
しかし、導入には厳格な要件が定められているほか、固定残業代相当分を超える労働をした場合には超過分に対する支払いが必要になるため、導入に当たってはその内容が賃金制度の現状や労働時間の実態に沿うように慎重に検討しなければなりません。

2 契約内容の見直し

一口に建設業といっても、取り扱う工事には建設、土木、設備、…と様々なものがあります。そのうえ、その規模の大きさや専門性の高さから、現場では会社が雇用している従業員以外にも多数の人が出入りし、作業にあたっていることも、建設業の大きな特徴です。
  
そして、現場で働く人たちが「従業員」でなければ、会社とは雇用関係にない以上、残業代請求等の雇用契約上の問題は起きません。経営者の皆様としても、「職人」や「一人親方」との間の関係は個人事業主との「請負契約」によるものであるとのご認識かと思います。
  
しかし、職人や一人親方との契約が「請負契約」であるかどうかは、形式的に用いた契約の名称ではなく、実質的な使用従属関係の有無から判断されます。その結果、法律的に有効な請負関係が認められず、会社が雇用責任を問われることもあります。
  
使用従属関係の有無を判断する要素としては、①仕事の依頼への諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の程度、③(勤務場所や時間についての)拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対価性、が挙げられます。それぞれの要素につき、仕事の依頼への諾否の自由がなく、業務の内容や遂行の仕方について指揮命令を受け、勤務の場所や時間が規律され、業務遂行を他人に代替させられない、報酬について時間給を基礎とするなど労働の結果による較差が少ない、といった実態が認められると、雇用に該当すると判断されやすいことになります。
  
このように、雇用か請負かは実態を見て判断されるものではありますが、たとえば「建設工事請負契約書」といった名称を使う等してその契約形態を明確にさせた書類を交わしておくことは、当事者間の認識をわかりやすく示すことができる点で重要です。契約書はいざという時のトラブルの予防・解決に大きな役割を期待できますので、知った間柄であっても契約書の作成を徹底すべきでしょう。
  
また、「一人親方」については、従業員でないため一般的な労災保険には加入できないのが原則ですが、その業務の実情や災害の発生状況などから、任意での加入が認められています(特別加入制度)。一人親方との契約の際に、この制度への加入をしていないようだったら、加入を促して万が一の事故に備えておくことも大切です。

3 建設業における顧問弁護士

建設業界では、その業務の身体的負荷の大きさから永らく人手不足が指摘されているところでもあり、人材を確保し定着させるという観点でもその就業環境の見直しは必須です。ですが、特に中小企業では、これまで就業規則や契約書等の社内規定を作成していなかった、作成していたとしてもネットから各々の会社の実態にそぐわないものを適当に拾って使用していた、というような労務リスクが放置されているケースが多く見受けられます。
  
現在の社内規定や労務管理にご不安な点があれば、ぜひ弁護士にご相談ください。

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