社内で労働組合が結成されたら
「知らない間に、社内に労働組合が出来ていた」
「突然、労働組合から団体交渉を申し入れられた」
「『労働組合を結成した』と言われたが、法的に認められた労組なのか」
こういったお悩みをお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか?
中小企業においては珍しいケースではありますが、ある従業員との労務トラブルなどをきっかけに、当該従業員が同僚たちと社内で労働組合を結成することがあります。このように特定の企業や事業者で働く労働者のみで組織された労働組合は企業別組合と呼ばれ、日本における労働組合では最も多い形態です。
労働組合との団体交渉においては、個々の従業員からではなく集団で、ときには激しい抗議を受けることもあります。そのため、特に上述のように中小企業の企業内組合が結成されたケースでは、初めて団体交渉に臨む会社側としてはどう対応していいのか困惑されるのではないでしょうか。ですが、こういったケースではまず初めに、結成されたその団体が法的な「労働組合」であるかどうか、落ち着いて検討してみましょう。なぜなら、相手が法律上も「労働組合」といえるかどうかで、与えられている法的保護の内容に違いがあるからです。
そこで、こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、労働者の団体が法的に労働組合と認められる要件と、要件を充たした労働組合に対する法的保護について説明いたします。
Contents
労働組合の要件
労働組合がどのような団体であるかは、労働組合法(以下では、「労組法」と記載します)に定められています。
労働組合が「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と定義づけられていること(労組法第2条)、加えて、労組法上の労働組合であるためには、同法が求める必要的記載事項を記載した組合規約を作成されていることが必要とされている(労組法第5条第1項)ことから、労働組合の要件は以下のように整理されます。
- 労働者が主体となって組織している団体であること(主体性の要件)
- 労働者が自主的に組織する団体であること(自主性の要件)
- 労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的としている団体であること(目的)
- 法定された事項を記載した規約が整備されていること
このうち、具体的事案において問題となりやすい要件は②と④です。以下、順に説明いたします。
(1)自主性の要件
労組法が労働組合に自主性を求める趣旨は、「労働組合は労働者の利益を代表して活動・交渉を行う組織であるために、使用者からは独立した団体であるべき」、という考えにあります。そこで、労働組合を定義する労組法第2条はその但書第1号及び第2号において、自主性が損なわれやすい団体の例を列挙しています。これらはいずれも、結成や運営につき実質的に使用者の支配を受けたいわゆる「御用組合」となるおそれがあり、労組法の保護を与えるに値しないと考えられているのです。
まず、「役員」や、人事に関して「直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」、労働関係についての計画と方針とに関する機密事項に接し、そのために「その職務上の義務と責任とが…組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的地位にある労働者」など、使用者の利益を代表する者が参加する団体は、労組法上の労働組合とは認められません(労組法2条但書第1号)。実際には一律に「管理職になったら労働組合から脱退する」という取り扱いをしている組合も多いですが、法的には形式的な肩書だけではなく実質的に、個別具体的に、その者が組合に加入することで使用者の支配が組合に及び得るかどうかという観点から判断されます。
また、団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けている団体についても、自主性を欠き労組法上の労働組合ではないとされます(労組法第2条但書第2号)。ただし、経費援助のすべてが禁止されているわけではなく、使用者による実質的な支配に結び付くとまではいえない行為、すなわち、「労働時間中に時間や又は賃金を失うことなく使用者と協議又は交渉することを使用者が許すこと」つまり団体交渉の時間を有給扱いとすることや、「厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附」、および「最小限の広さの事務所を供与すること」については例外的に可能とされます。
(2)規約の作成
労組法は、労働組合の公正かつ民主的な運営を確保する趣旨で、組合規約に求める必要的記載事項を以下の通り定めています(労組法第5条第2項)。なお、労働委員会で行われる資格審査(労組法第5条第1項)は、あくまで以下の内容が定められているか否かという点のみが対象で、実際にそれらが遵守されているか否かまでは及びません。
☑名称
☑主たる事務所の所在地
☑組合員が組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱いを受ける権利を有すること
☑人種、宗教、性別、門地又は身分による組合員資格剥奪の禁止
☑組合役員が直接無記名投票で選挙されること
☑少なくとも毎年1回の総会の開催
☑資格者を有する会計監査人による会計報告と少なくとも毎年1回の組合員への公表
☑同盟罷業開始を直接無記名投票の過半数により決定されること
☑労働組合の規模に応じた規約改正要件
要件を充たした労働組合にしか出来ないこと
(1)労働委員会への救済申立て
労働組合は、労働委員会に証拠を提出して上述の①~④の要件に適合することを立証しなければ、労組法に規定する手続に参与する資格を与えられず、かつ、労組法に規定する救済を受けられないと定められています(労組法第5条第1項)。
したがって、これらの要件を充たさない法不適合組合は、労組法に定められている不当労働行為の救済手続(労組法第27条)を利用できません。すなわち、たとえば企業に団体交渉を拒否されたとしても、法不適合組合はそれを不当労働行為として労働委員会に救済の申立てをすることができません。
(2)労働協約の締結
企業と労働組合との間で締結される組合員の労働条件等の合意を書面化したものを、労働協約といいます(労組法第14条)。この労働協約は就業規則や労働契約よりも優先されるため(労働基準法第92条及び第93条)、例えば、団体交渉の結果、就業規則や労働契約よりも従業員に有利な労働条件を労働協約によって取り決めることになると、組合に加入している従業員については労働協約に定める条件が適用されることになります。ですが、労働協約もその法的根拠は労組法にあるため、法不適合組合は、労働協約を締結することが出来ません。
ただし、法不適合組合の中でも、上記①~③の要件は充たすが、要件④の組合規約が整備されていないだけの組合(「規約不備組合」と呼ばれます)であれば、労働協約締結は可能であると解されています。もっとも実務上は、資格審査の段階でほぼ全ての規約不備組合には労働委員会からの補正勧告に応じて規約を備えることになります。
(3)労組法上の労働組合でない団体の取り扱い
仮に社内で結成された組合が法不適合組合であったとしても、当該団体が労組法上の特別な保護を受けられないというだけで、その存在自体を否定されるわけではないという点には注意しなくてはなりません。
したがって、労組法上の要件を満たさない法不適合組合であっても、労働者が自主的に組織し、労働者の地位の向上という目的が果たされていれば、憲法で保障される「勤労者の団結」(憲法第28条)にあたるからです。すなわち、法不適合組合が行った行為であっても、争議行為等の正当な団体行動であれば、民事・刑事免責および裁判所における不利益取り扱いの禁止といった保護が及ぶことになります。
団体交渉・労働組合対策には顧問弁護士をご活用ください
ここまで見てきたように、社内で「労働組合」を名乗る団体が結成されたとき、それが労組法上の労働組合に該当するか否かを判断するには多くの要件を検討しなければならず、決して容易ではありません。また、仮に労組法上の要件を満たさない組合であったとしても、法的保護に値する「労働者の団体」であることには変わりありません。そのため、いずれにしても企業側は、従業員との間で生じている問題の解決に向けて対応を考えることが必要です。
そして、結成されたのが労使協調路線をとる企業別組合であればさほど問題とないとしても、組合員がさらに合同労組(ユニオン)などに加入したり、組合そのものが産業別組合などの上部団体に加盟したりするケースでは、より慎重に対抗策を練っておかなければなりません。なぜなら、こうした労働組合は団体交渉のノウハウを合同労組や上部団体と共有し、万が一企業側とトラブルになれば上部団体の全面的なバックアップを受けて交渉にやってくるからです。これに対し、企業側が各種労働法規への理解が不十分で、何も対抗策を用意しないで交渉に臨んでしまうと、組合側に主導権を握られたままその主張を甘受しなければならなくなるおそれがあります。そこで、団体交渉において企業を守るためには、労働問題に強い弁護士等の専門家の支援を受けることを強くお勧めいたします。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。労働組合への対応についても、労働協約に関する書類の作成、労働者側との条件調整などを専門的な知見に基づき行ってまいります。また、団体交渉の申出があった際の対応はもちろんのこと、労働組合から団体交渉をされないために、事前に就業規則の整備や労働環境の調整などについてもアドバイスをさせていただきます。
社内で結成された労働組合・団体交渉への対応にお悩みのある札幌市近郊の企業様は、経営者側の労働問題の予防・解決に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。
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