定年後再雇用社員の雇止め・更新拒否
Contents
高年齢者雇用安定法に定める雇用確保措置
☑「従業員の高齢化が進んでおり、生産性の低下が心配だ」
☑「定年を迎えた従業員に仕事を続けてもらうためにどのような契約をすべきか」
☑「業務遂行能力に問題のある高年齢者の契約の更新を拒否したい」
こういったお悩みをお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか?
少子高齢化が急速に進んでいる現代社会においては、労働力の減少を補うために、熟練人材の活用は常に企業の課題となっています。国も働く意欲のある高年齢者の活躍を後押しするため、現在まで何度も高年齢者の雇用に関する法の改正を行っています。
とはいえ、例えば健康状態に問題がある従業員につき、定年後の再雇用をためらわれるケースもあるかと思います。そこで、こちらでは、札幌市近郊で使用者側の労務問題に特化している弁護士が、現在の法規制のポイントと再雇用の拒否・雇止めをする場合の対応方法についてご説明いたします。
(1)高年齢者雇用安定法と選択的雇用確保措置
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(通称:高年齢者雇用安定法。以下、「高年法」とよびます)とは、少子高齢化による労働力減少に対し、「高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与すること」を目的とする法律です。この法律により、企業は60歳を下回る定年を定めることができないものとされた(高年法第8条)ほか、事業主には次のいずれかの雇用確保措置をとることが義務づけられています(高年法第9条第1項)。なお、すでに65歳以上の定年制を導入している事業者には適用がありません。
- 定年の引上げ
- 継続雇用制度の導入
- 定年の定めの廃止
もし、これらのいずれの措置も取らない場合は、厚生労働大臣の指導助言および勧告がなされ、従わないときには企業名が公表されるおそれがあります(高年法第10条)。
もっとも、①定年の引上げや③定年の定めの廃止を選択すると、従前の労働条件のまま雇用が継続することになるため、年齢序列制をとる多くの企業で人件費がかさむ、世代交代がうまくいかなくなる、といったデメリットが挙げられています。そこで、ほとんどの企業で②継続雇用制度が選択され、その中でも、対象となる労働者が定年を迎えても退職させずそのまま雇用する勤務延長制度ではなく、対象者が定年を迎えた段階で一旦退職扱いとした後で再度雇用する形をとること(再雇用制度)が一般的です。なぜなら、再雇用制度を導入した事業者には、定年に達した従業員のうち希望者全員を継続雇用とすることが義務付けられるものの、定年退職者の希望する条件をすべて受け入れることまでは求められません。よって、再雇用にあたって嘱託社員や契約社員、パートタイマーなどに雇用形態を変更することや、合理的な裁量の範囲内での勤務条件や職務内容の見直し、それに伴う賃金の減額といったことが可能で、企業にとっては人材活用がしやすいからです。
そして、再雇用にあたっては対象の社員を1年契約の有期嘱託社員とし、1年ごとに契約を更新するという形をとることが多いです。こうして、当該社員の適格性や心身の健康状態を定期的に把握できるようにし、適宜職務内容の変更等の措置をとることが出来るようになります。
(2)2021年4月1日施行の改正内容
さらに、2021年4月1日施行の高年法改正では、事業者に対し65歳から70歳までの労働者の就業確保措置をとる努力義務が追加されました。
具体的には、事業者は以下のいずれかの措置をとるよう努める必要があります。もっとも、あくまで努力義務が課されているにすぎないため、希望者全員に措置を講じないとならないわけではなく、それぞれの措置を受けられる対象者の条件を設けることは禁じられていません。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
1、事業主が自ら実施する社会貢献事業
2、事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
なお、④と⑤については、過半数労働組合等の同意を得たうえで措置を導入する必要があります。
定年後再雇用社員の更新拒否は可能か
ここまで見てきた通り、再雇用制度を導入した事業者には、少なくとも定年に達した65歳までの希望者全員を再雇用する義務が課されます。そして、当該社員を有期嘱託社員として再雇用後、適格性や業務遂行能力等に問題がある等の理由により契約の更新を拒否したい場合でも、企業は自由にこれを行うことはできません。嘱託社員との契約も有期労働契約である以上、雇止めに関する労働契約法の規制に服することになるからです。
(1)雇止め法理とは
確かに、有期契約の期間が満了し、使用者が満了後は契約を更新しない旨を通知すれば雇用契約関係は終了するのが原則です(更新拒否、雇止め)。しかし、この原則を貫くと有期労働者の法的地位が不安定になってしまいます。そこで、労働契約法では、労働者保護の観点からこうした雇用契約期間満了による労働契約の終了について制限を加え、こうした規制が「雇止め法理」と呼ばれています(労働契約法第19条)。
労働契約法が定める、雇止め法理の対象となる有期労働契約は、次の2種類です。
①実質無期契約型(労働契約法第19条第1号)
「過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる」ものをいいます。
こうした、有期労働契約が業務の客観的内容や労使双方の主観的態様、これまでの更新手続の実態などの事情を考慮して、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている場合には、客観的合理性および社会的相当性のない更新拒絶・雇止めが認められません。
②期待保護型(労働契約法第19条第2号)
「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」ものをいいます。
こうした、業務内容の恒常性や当事者間の言動・認識などの事情を考慮して、労働者からの雇用継続への合理的な期待が認められる場合には、客観的合理性および社会的相当性のない更新拒絶・雇止めが認められません。
これらの雇止め法理に反する更新拒絶や雇止めは効力が認められないため、契約が更新されたものと同様に、従前の有期労働契約における労働条件と同一の労働条件で労働契約が存続することになります。
(2)定年後再雇用社員と雇止め法理
有期嘱託社員として再雇用された高年齢者の契約更新においても、雇止め法理が適用されます。
そして、上述の通り高年法が65歳までの雇用確保措置を講じることを企業に義務付けていることや、定年後の再雇用は定年までの勤務の事実を前提とした継続雇用といえることから、一般的には労働者が契約更新を期待することの合理性(労働契約法第19条第2号)は認められることがほとんどです。そのため、企業が再雇用した有期嘱託社員の契約更新を拒否するには、当該更新拒絶に客観的合理性と社会的相当性を備えることが必要となります。裁判例においても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない定年後の再雇用拒否を違法とし、雇用関係が存続していることを前提に企業が賃金等の支払義務を負うとしたものがあります(最高裁平成24年11月29日判決、津田電気計器事件など)。
再雇用社員の契約更新拒否が適法となるケースは、当該社員に解雇事由に相当する事由があるといった、限定的な場合のみになるといえるでしょう。そのため、例えば体力の衰えや持病の悪化といった、当該社員の健康上の問題を理由とする場合であっても客観的な根拠が必要であり、医師の判断を仰ぐことなく、あるいは他の業務についての労務提供の可能性を検討することなく、契約の更新を拒むことは認められないことになります。
高年齢者の雇用に関する対応には顧問弁護士をご活用ください
ここでは高年法の最新の改正に焦点を絞ってご説明しましたが、これまで数回行われてきた同法の改正の経過をみると、いずれは70歳までの継続雇用の義務化も十分想定されうるところです。また、企業においても、止まらない少子高齢化の中で人材不足に陥らないためには高年齢者に活躍してもらうことが不可欠となっていくことでしょう。
もっとも、高年齢者の雇用を確保するための制度設計に不備があれば違法とされ、高年法上の制裁を受けるおそれがあります。また、雇止めに踏み切る際にはその客観的合理性と社会的相当性を根拠づける証拠を収集し、適切なプロセスを経なければ法的紛争に発展するリスクもあります。
こうした時流により変化していく法規制に対応していくことはもちろん、それぞれの企業の事情を踏まえたうえで適切な制度設計・運用をしていくには現行の就業規則等を継続的に改善していくことが重要です。
そこで、高年齢者の雇用に関しては労務問題を熟知した顧問弁護士のサポートを受けられることをお勧めします。弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。高年齢者の雇用確保措置に関しては、顧問先企業の就業規則等につき弁護士が最新の法令に適合しているかどうかチェックし、必要に応じて予防法務も兼ねた提案をさせて頂きます。また、弁護士が定期的に顧問先をレビューすることで、大きな紛争となることを未然に防ぎ、経営効率を向上させます。
高年齢者の雇用に関してご心配・ご不安な点のある札幌市近郊の企業様は、経営者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。
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