秘密保持契約書の作成・締結時に知っておくべき注意点を解説
秘密保持契約は、企業の顧客情報、技術・ノウハウといった重要な秘密情報が従業員によって第三者に流出することを防ぐ目的で締結されるもので、従業員の退職時などに競業避止義務を課す場合に活用されます。従業員と結んだ秘密保持契約が不十分であったことが原因で競合他社等に情報が持ち出されてしまえば、競合他社に後れを取るだけではなく、顧客からの信用を失う事態にもなりかねません。
そこで今回は、従業員との秘密保持契約書の作成時・締結時に知っておくべき注意点を解説します。
従業員との秘密保持契約書を作成する際の注意点
秘密にしたい情報の範囲を明確にすること
秘密保持契約書を作成する際に重要なことは、「何を秘密情報とするのか」ということです。秘密にしたい情報の範囲を従業員に明確に示しておかなければ、「秘密情報とは思わなかった」と主張された場合に反論することができません。対象が曖昧であったり範囲が広すぎたりする規定は、契約自体の有効性が認められず、情報漏洩が発生しても損害賠償請求ができなくなるおそれがあります。秘密保持契約書では、秘密情報を以下の例のように具体的に明示しましょう。
・顧客の連絡先、住所に関する情報
・顧客との取引時に提供された、顧客に関する情報
・取引内容、回数、価格、担当者に関する情報
・予め社外秘であると定められた情報
抽象的な表現は避け、誰が確認した場合も契約対象の情報を明確に理解することができる内容にする必要があります。
契約の有効期間を適切に示すこと
秘密保持契約書には、契約の有効期間を明示すべきです。「一度契約を結べば、当然ずっと秘密情報を守ってくれるだろう」という考え方は危険です。在職期間中は1年単位で契約の有効期間が自動更新されるように定めるなど、秘密保持契約書の有効期間が、従業員の全在職期間を網羅することができるようにしましょう。更に、退職後の競業避止を促すためにも、退職以降の契約の有効性についても明示しておくことを推奨します。
損害賠償請求の条項を含めること
現実に情報漏洩が発生した場合、民法の定めに基づき企業は従業員に対して損害賠償請求を行うことができます。そのため、法的には必ずしも秘密保持契約書に損害賠償請求の条項を入れる必要はありません。しかし、企業が従業員と契約を結ぶ際は、契約違反があった場合の措置について確認的に規定しておくことが通例であり、損害賠償を行う旨が明示してあるだけで情報漏洩行為に対する抑止効果が期待できます。ぜひ損害賠償請求の条項も盛り込むようにしましょう。
Web上のテンプレート使用には注意すること
秘密保持契約書を作成し活用することは業界問わず一般的になっており、それに伴いWeb上には多くのテンプレートが存在しています。しかし、中には弁護士によるリーガルチェックが不十分なものもあるため、テンプレートを用いる際でも、法的な観点から内容をしっかりと確認することが重要です。また、よくあるケースとしては、企業の実情に即していない内容となっていることで、効力を発揮しない契約書となっていることが挙げられます。テンプレート等を使用して自社で契約書を作成する場合も、弁護士などの専門家に一度アドバイスを受けることを推奨いたします。
秘密保持契約を従業員と締結する際に押さえるべきポイント
秘密保持契約の対象範囲は全ての従業員とすること
秘密保持契約は、正社員だけでなく非正規雇用者も含む全ての従業員と締結しましょう。パートやアルバイトであっても、内部者として企業の情報にアクセスし得る立場にあることは、正社員と変わりありません。特に近年では、アルバイトが安易にSNS上に企業の情報や内部事情を公開、拡散されてしまう事件が増えています。雇用形態に関わらず企業の秘密を守るべき立場であることを自覚してもらい、従業員全員の秘密保持に対する意識向上を図る必要があります。
契約締結のタイミングは入社時と退職時であること
秘密保持契約の実効性を確実に高めるためには、従業員が入社すると同時に秘密保持契約書を締結することが重要です。入社直後の研修等で秘密保持契約の内容や罰則規定の説明を行い、理解促進を図りましょう。また、中途退職した従業員が営業秘密を漏洩するケースが多いため、退職時にも秘密保持契約を締結することが重要です。在職中に所持していた秘密情報の破棄や返還、転職後に業務で取得した情報の漏洩や使用の禁止を義務付けて誓約させましょう。
契約締結を拒否されても強制しないこと
入社時や在職中の秘密保持契約書の提出は拒否されないことがほとんどですが、退職時に秘密保持契約の締結を拒否されるケースは決して珍しくありません。特に退職する従業員が競合他社に転職する場合にはトラブルになりやすいです。競合他社への技術、ノウハウの流出は避けるべきですが、契約締結を拒否されたとしても契約書の提出を強制することは避けましょう。契約に合意するかどうかは本人の自由であるため、強制的な契約は無効と判断される可能性が高いからです。退職後の情報漏洩を確実に防ぎたい場合は、在職中の秘密保持契約に、予め退職後に関する条項も含めておきましょう。ただし、退職後の競業避止義務の主張は、憲法で保証される職業選択の自由を不当に制限しない範囲でなければならないことに注意が必要です。
まとめ
秘密保持契約書の締結にあたっては、秘密情報の範囲や有効期間を明確に示し、全従業員の入社時に適切な理解を促すことが重要です。損害賠償請求が可能であるとしても、実際に漏洩してしまった情報は取り返しがつかないため、情報漏洩を未然に防ぐ対策を強化しておく必要があります。秘密保持契約書の作成・締結は客観的な情報の精査や法的な観点からの確認が必要であるため、弁護士にリーガルチェックを依頼することをおすすめします。
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