事業者の労働時間把握義務とは
Contents
1 はじめに~労働時間管理の重要性
「労働時間把握義務とはどのようなものか」
「通勤、着替えや朝礼、引継ぎなど…、これらが労働時間に含まれるのだろうか」
「会社が労働時間の把握義務を果たしたといえるためには、どのような対応が必要か」
こういった疑問をお持ちの企業・法人様はいらっしゃいませんか?
働き方改革の一環で労働安全衛生法が改正され、長時間労働を防ぎ従業員の適切な健康管理を図るため、2019(平成31年)年4月から事業者の労働者の労働時間を把握する義務が明文化されました(労働安全衛生法第66条の8の3)。
この労働時間把握義務に反する事業者は労働基準監督署による是正勧告の対象となります。また、長時間労働が引き起こす諸問題は社会からも大きな関心を寄せられていますから、もし労働時間を正しく把握していないことで未払残業代が発生していたり、従業員のメンタル不調、過労死といった労働災害事案が発生したりする事態に発展すれば、報道やSNSにより情報が拡散し、企業の信用を著しく損ねることにもなりかねません。
そこで、こちらの記事では、札幌市近郊で労務トラブルに注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、労働時間の把握方法や注意点について解説いたします。
2 労働時間とは
まず、事業者が把握しなければならない「労働時間」とは具体的にどのような時間を指すのでしょうか?
労働時間は、裁判例上「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています(最高裁平成12年3月9日判決:三菱重工長崎造船所事件)。また、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか否かは、その労働者が置かれている状況が客観的に見て、使用者により業務上義務付けられているかどうかにより判断します。
具体的には、以下のように考えられます。
✅待機時間、仮眠時間
→指示があれば直ちに業務に入るべき状況に置かれていれば労働時間に含まれる ✅作業服や制服への着替え、装備の着用時間 →指定の服装、装備での業務が義務付けられていれば労働時間に含まれる ※更衣室等が無く従業員全員が作業服や制服のまま出社、帰宅しているような場合など、個別具体的な判断を要する場合もあります ✅準備体操、朝礼、引継ぎ作業 →義務的に行われていたり、業務上必須の作業であれば労働時間に含まれる ✅研修時間 →参加が強制されていれば労働時間に含まれる ※明確に参加を命じられた場合はもちろん、業務上必要な内容の研修であったり、参加しないことで不利益が生じたりと実質的に強制されているとみられるケースも含みます ✅出社後に会社と取引先を往復する時間、次の取引先へ移動する時間など →事業者の指揮命令下に置かれていると考えられ、労働時間に含まれる ※出社の有無のほか、スケジュールとして組み込まれているか否か、会社の商品や備品(通信機器等)を運搬しているか否か、…なども考慮要素になります なお、 ✅通勤時間 →自由に行動でき、使用者の指揮命令下に置かれてはいないので労働時間に含まれない ※ただし、通勤中に取引先に立ち寄るよう命じられた場合などに、通勤経路から外れた部分については労働時間に含まれます |
問題になりがちなケースとして、例えば、「始業時刻前の着替えや準備時間を労働時間から除外してしまっている」「全員参加の朝礼後にタイムカードを押させている」「昼休み中の電話当番や来客当番を休憩時間扱いにしている」「タイムカード打刻後に片付け作業をさせている」といったものがあります。当てはまってしまってはいないか、今一度確認してみましょう。
3 労働時間管理に関する相談が多い業種
「労働時間の管理について心配な点がある」という経営者様は業種問わずいらっしゃるとは思いますが、特に以下の業種ではご相談を頂くことが多いです。
✅運送業 ✅建設業 ✅情報通信業 ✅宿泊業 ✅飲食業 ✅教育関連業(学習塾等)✅医療、介護福祉業 ✅サービス業
これらはいずれも
・長時間労働になりやすい
(時間外労働に加え休日労働、深夜労働が発生しがち)
・不規則な勤務体制がとられている
(24時間稼働するための交代制や繁閑の差を考慮した変形労働時間制など)
…といった特徴を有しており、そのために労働時間の管理が行き届いていない状態が放置されているケースが見られます。
4 労働時間の把握のために講ずべき措置
使用者は、労働者の労働日ごとの始業および終業時刻を確認し、これを記録する必要があります。具体的な方法や、確認・記録にあたって必要な措置については、厚生労働省がガイドラインを定めています。
(1)始業・終業時刻の確認および記録の方法
確認及び記録は①使用者が自ら現認する、②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎とする、のいずれかの方法が原則であるとされています。もっとも、実際は従業員全員の始業・終業時刻を使用者が現認するということは困難ですから、多くは②のタイムカード等を使用する方法によることと思われます。
(2)自己申告制のもとで使用者がすべきこと
もっとも、外回りが多い営業職など、事業所でのタイムカード等の利用が難しい場合では、従業員の自己申告で労働時間を確認せざるを得ないこともあります。しかし、自己申告に任せているとどうしても労働時間管理はあいまいになりがちです。そこで、上記の①②のいずれも取ることが出来ず、やむを得ず自己申告制を採用せざるを得ない場合には使用者は以下の措置を講ずるべきとされています。
従業員および管理者への十分な説明
自己申告制の導入の際には、対象となる従業員に対して労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行わなくてはなりません。
また、実際に労働時間を管理する者に対しても、適正な運用を含め、使用者として講ずべき措置について十分な説明が必要です。
実際の労働時間との合致について実態調査と補正
自己申告により把握した労働時間が実際に労働時間と合致しているか、必要に応じて調査し、合致していなければ補正を行わなければなりません。
もし従業員が申告した時間を超えて事業所内にいた場合にその理由等を報告させる際には、当該報告が適正に行われているかどうか確認する必要があります。従業員から休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されることがあるかもしれませんが、実態を確認し使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間があれば、その時間は労働時間として扱わなければなりません。
適正な申告を阻害しない
「従業員が自己申告できる時間外労働時間に上限を設け、上限を超える申告を認めない」といった、従業員からの適正な申告を阻害する措置を講じてはならないのはもちろんですが、「従業員が慣習的に労働時間を過少に申告していないか」という点についても確認する必要があります。
(3)賃金台帳の適正な調製
使用者は、賃金台帳に各従業員の労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適性に記入しなければなりません。もしこれらの記入がなかったり、故意に虚偽の労働時間数を記入したりした場合には、30万円以下の罰金に処されるおそれがあります(労働基準法第120条)。
(4)労働時間の記録に関する書類の保存
使用者は、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類については3年間保存しなくてはなりません(労働基準法第109条)。
(5)労働時間の管理者の職務
労務管理を行う部署の責任者は、事業所内における労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握およびその解消を図る必要があります。
(6)労働時間短縮推進委員会等の活用
使用者は、事業場の労働時間の管理状況を踏まえて、必要に応じて労働時間短縮推進委員会等を設置して労働時間について検討する必要があります。
5 適切な労働時間管理のために、弁護士がサポートできること
働き方改革を通じて労働者の健康を守るための関連法規も整備され、各企業による従業員の労働時間管理に関しても労働基準監督署が実態を調査するようになっています。
企業の信用を守るためにも、労働時間の管理を適正に行う体制を構築・運用出来ているか、使用者側の労働問題を熟知した弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労働時間の管理体制の改善に向け、法的な見地からアドバイスをいたします。複数の顧問弁護士プランを用意し各企業様・法人様のニーズに沿ったサービスを提供させていただいておりますので、労働時間の管理についてご心配な点がある際はお気軽にお問い合わせください。
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