賃金未払いの類型と罰則

賃金未払いの類型と罰則

「そもそも、なぜ未払賃金の問題が起きるのだろうか」

「賃金の未払いで会社が刑事責任を負うことはあるか」

…こういった疑問を感じられることはないでしょうか。

2020(令和2)年4月以降の時間外労働の上限規制の適用対象拡大、賃金請求権の時効期間の延長、といった法改正が進んだことも後押しし、中小企業においても残業代請求の件数・請求額はますます増加するものと考えられます。

そこで、こちらの記事では、そもそもどういったケースで未払賃金が問題になっているのか、また、賃金の未払いに対し労働基準法がどのような罰則を規定しているか、という点について札幌市近郊で使用者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が解説いたします。

賃金の未払いが問題になりやすいケースとは?

(1)時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金の未払いがある場合

「1日8時間または週40時間」を超過した残業(時間外労働)では25%から50%(※)、法定休日の労働では35%、22時~5時の間の労働には25%の割増率で計算される割増賃金が加算されます。この割増分についてそもそも支払っていないケース、また計算の誤り等により未払が争われるケースがあります。

(※)時間外労働が月60時間超の場合、割増率は50%と定められています。この部分の規定は2023年3月末までは中小企業には適用が猶予されていますが、2023年4月以降は大企業同様50%となりますので、就業規則の変更が必要になることもあります。なお、月60時間超の時間外労働の割増率のうち25%を超える部分については、労使協定により割増賃金の支払いに代えて休暇を与えることもできます。

(2)定額残業代(固定残業代、みなし残業代)の要件を充たしていなかった場合

残業代については、定額残業代(固定残業代、みなし残業代とも呼ばれます)を導入している会社もあります。これは上述の各割増賃金を定額で支払うというもので、メリットとしては給与計算の効率化などが挙げられます。

ですが、定額残業代は割増賃金であることについて労働者に誤解を与えることの無いよう、①所定内賃金部分と定額残業代部分とが判別でき、かつ②時間外労働の対価として支払われることが明確に示されていなければなりません。定額残業代の有効性が争われた裁判例の中にはこれらの要件を充たしていないために会社が導入していた定額残業代が有効な割増賃金の支払いと認められず、結果会社に多額の未払残業代の支払いを命じたケースもあります。

(3)フレックスタイムや変形労働時間制のもとで割増賃金の未払いが生じる場合

①フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)

フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間。1か月~3か月の間で企業が定めます)についてあらかじめ所定労働時間を定めておき、その範囲内で労働者が自ら日々の労働時間を決定することを認める制度です。後述の変形労働時間制と異なり労働者自身で出退勤の時間を調整できるという点がポイントで、ワークライフバランスの向上、離職率の減少といった効果を見込んで導入される制度です。フレックスタイム制のもとでは、清算期間における合計労働時間が、企業が法定労働時間の総枠(※)内で定める、清算期間内の総労働時間を超過した場合には、超過時間について時間外労働の割増賃金の支払が必要になります。

②変形労働時間制(労働基準法第32条の2、第32条の4)

変形労働時間制は、一定の期間(変形期間。原則は1か月以内または1年以内ですが、一定の条件を満たす企業では1週間単位で定めることも出来ます)で、1週当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない場合に、その期間内の一部の日または週で法定労働時間を超えて労働させることが出来る制度で、繁忙期と閑散期のある業種で導入が進んでいます。

変形労働時間制においては、

  1. 1日の時間外労働は=法定労働時間(8時間)を超える労働時間が定められた日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間、
  2. 1週の時間外労働=法定労働時間(40時間)を超える労働時間が定められた週はその労働時間、それ以外の週は40時間を超えた労働時間(①の時間を除く)、
  3. 対象の変形期間全体の時間外労働=変形期間の法定労働時間の総枠(※)を超えて労働した時間(①および②の時間を除く)、

のすべてが時間外労働の割増賃金の対象となります。

(※)清算期間・変形期間における法定労働時間の総枠は、1週間の法定労働時間(40時間)×(清算期間・変形期間の暦日数÷7日)で計算します。

これらの制度を巡っては、そもそも導入のための必要な手続を踏んでいない、規定の仕方に誤りがある、日々の労働時間の把握がずさんになる、割増賃金の計算を誤っている、…といったことが原因で割増賃金の未払いが争われるケースがあります。

 

(4)管理職の割増賃金未払いがあった場合

「店長」「部長」「マネージャー」…など、会社内ではチームを管理する立場の役職が決められていることがあります。ですが、これらの役職についている方が必ずしも労働基準法上の「管理監督者」と一致しないことから、割増賃金未払いのトラブル、いわゆる「名ばかり管理職」を巡る問題が生じることがあります。

すなわち、労働基準法第41条は、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(同第2号)には、使用者が負う割増賃金の支払義務について定める同法第37条の適用を除外する旨定めています。ですが、その趣旨は、これらの者が事業主と一体的な立場にあり、自らの労働時間は自己の裁量で決めることが出来るため法律による労働時間の規制という保護を必要としないとされる点にあります。これを鑑みると法律上の「管理監督者」に該当するか否かはその名称にとらわれず、職務内容や権限(特に労働時間についての裁量権の有無)、賃金上の処遇、勤務態様などの実態に即して厳しく判断されています。こうして、労働時間規制の保護下に置かれるべき「名ばかり管理職」による未払割増賃金請求がなされるケースがあるのです。

(5)賃金支払いの5原則に反する場合

「賃金支払いの5原則」とは、①現物給与の禁止、②直接払いの原則、③全額払いの原則、④毎月1回以上の原則、⑤一定期日払いの原則、の5つのルールです(労働基準法第24条)。

これらに反する例として、

  • 自社の商品や商品券などを渡すのを賃金支給の代わりにすること→①に違反
  • 貸金業者から借金をしている従業員に代わって賃金を返済として支払うこと(給与の差押えのケースを除く)→②に違反
  • 会社に与えた損害に対する賠償として給与からの天引きをすること→③に違反
  • 年俸制を定めた会社で、年俸を一括払いすること→④に違反
  • 毎月「売上ノルマを達成した日」に給与を支払うこと→⑤に違反

…などがあります。

この賃金支払いの5原則に反することも場合によっては賃金未払いの一類型といえ、罰則の対象となります(後述の通り、割増賃金の未払いのケースとは罰則の根拠条文が異なるほか、付加金の対象にはなりません)。

金未払いに対する罰則

割増賃金の未払いについては「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(労働基準法第119条第1号)、賃金支払いの5原則の違反に対しては「30万円以下の罰金」という罰則が規定されています(同第120条第1号)。

罰則の対象は各規定に「違反した者」であり、事業主に限られません。もっとも、事業主ではない使用者(事業主のために行為をする者)、管理職らによる違反行為は「会社のためになされた」「会社ぐるみで行われていた」というケースが多いです。そこで、このような場合は事業主も違反者と同じ罰金刑を課す旨が定められています(懲役刑は対象となりません)。ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をとっていれば会社ぐるみの違反とはいえませんから、この規定は適用されません(同第121条第1項)。

付加金や遅延損害金(遅延利息)の支払いも

(1)付加金とは

上記の類型のうち、割増賃金の未払いについては、使用者に対する制裁の趣旨で「付加金」が定められています。付加金とは、労働者が未払残業代とあわせて請求し、裁判所が判決により使用者に命じるものです(労働基準法第114条)。

付加金の額は、条文上は未払残業代と「同一額」と規定されていますが、実務上は使用者側の違反の程度や、労働者側が被った不利益の程度など個別具体的な事情を考慮して「未払額と同一額を上限に」付加金額を決めています。

(2)遅延損害金(遅延利息)の利率についての特則

残業代が決められた支払期日(給料日)に支払わなければ、その翌日を起算日として遅延損害金(遅延利息)も発生します。

その利率は、当該従業員の在職中は2020年4月に施行された改正民法の法定利率により年3%ですが、退職以降も支払いがなければ「賃金の支払の確保等に関する法律」が適用され年14.6%となります。上述の民法改正に合わせて賃金債権の消滅時効期間が延長されていますので、長期間の残業代未払があったケースでは遅延損害金も増えてしまいます。

未払賃金の予防対応には顧問弁護士を

(1)賃金の未払いを放置することで会社が負うリスク

労働基準法には企業への罰則が規定されていますが、実際は賃金の未払いが長期間・多額である、是正勧告に従わない、など相当悪質なケースで無い限り、いきなり刑罰を受けるようなことはありません。ですが、労基署の調査や是正勧告があった時点で会社の悪い評判が広まり、取引先からの信用を損ねたり、従業員のモチベーション低下や退職、採用活動への悪影響、といった事態が生じるリスクがあります。

また、未払賃金を請求されるケースでは、特定の従業員の一人だけでなく複数の従業員に未払いが生じていることが判明することがあります。そのため、はじめは一人の従業員との間で揉めていたとしても、当該従業員と同様の待遇の従業員にトラブルが波及した結果、想定以上に多額の支払いに応じなければならなくなるおそれもあります。

(2)弁護士法人リブラ共同法律事務所の顧問契約

労務管理には関連法規や裁判例を理解しておくことが不可欠です。ですが、近年の法改正が続いている中で「現行の社内制度を見直すことにリソースを割けない」、「法律の知識を持った社員がいない」といったご心配もあるかと思います。そこで、労務管理においては法律の専門家である弁護士のサポートを継続的に受けることをお勧めいたします。

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。未払賃金をめぐるトラブル予防のため、現状の雇用契約書および就業規則等の問題点の洗い出しや改善のためのアドバイスをさせていただきます。また、未払賃金の支払いを受けた際には、企業の代理人として対応いたします。

労務管理にお悩みのある札幌市近郊の企業様は、使用者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

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