未払残業代請求に対して会社側が反論できるケース 

「残業代を請求されているが、こちらはきちんと支払ってきたつもりである」

「従業員から請求されている残業代額が過大ではないかと感じている」

「未払残業代に関する不当な主張に反論したい」

…このようにお考えになったことはありませんか?

会社が従業員から未払残業代を請求された際には誠実に対応し、従業員の主張内容や事実関係を整理したうえで適切な根拠に基づく請求がなされているようであれば速やかに支払いに応じるべきことは当然ですが、もし不当な請求・過大な請求なのであれば会社としても反論する必要があります。

こちらの記事では、札幌市近郊で労務トラブルに注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、従業員による残業代請求に対して会社が反論できるケースについてご紹介いたします。

 

1残業代請求権の消滅時効が完成しているケース

残業代請求権も消滅時効の規定が適用されます(労働基準法第115条)。

そのため、2020(令和2)年3月31日以前に発生した残業代は2年で、同年4月1日以降に発生した残業代は法改正により3年で時効が成立します。そこで、残業代請求を受けた場合はまずその残業代の「支給日」と、「その翌日から起算して上記期間が経過しているかどうか」を確認しましょう。

もし請求されている未払残業代のうち全部または一部につき消滅時効が完成しているケースであれば、「時効により請求権が消滅したため支払わない」との反論が可能です。

2従業員の主張する労働時間が過大であるケース

「従業員が残業をしていたと主張する時間が実際の労働時間よりも多いため、過大な残業代が請求されている」という反論が考えられます。

実際の残業代請求の事案では従業員側から請求を裏付ける証拠としてタイムカード等が提出されることが殆どですが、例えば、タイムカードの打刻時間中に従業員が業務と無関係なことをしていたり、私的な用事等で不要に会社に居残っていたり、就業規則に定められた時間を超える休憩をしたりしていたケースでは、それらの時間は労働時間とは認められず、残業代請求の対象にならないと反論できることがあります。

もっとも、労働時間から除外すべき休憩時間といえるためには「当該時間に労働から離れることが保障されて自由に利用でき、使用者の指揮命令下から離脱していること」を要します。作業と作業の間の待機時間や仮眠時間等、業務の必要が生じれば直ちに作業すべき状況に置かれている時間であれば休憩とは認められず労働時間に含まれることに注意しましょう。

 

3会社により残業が禁止されていたケース

終業時間後の残業に対しては会社から黙示の業務命令があったと解されることが通常であり、「指示していないのに勝手に残っていた」というような反論は原則として認められません。ですが、「残業は原則禁止」「どうしても残業が必要な際は上司の承認が必要とする」「業務が残っていれば管理職に引き継ぐ」というように厳格に残業を禁止・制限するような体制がとられていたようなケースでは「残業は会社の指示によるものではなく、残業代は発生しない」と反論できることがあります。

ですが、この反論が認められるハードルは高く、形式的には残業を禁止していたとしても状況次第では「事実上黙認されていた」と認定されるケースでは反論は認められません。残業禁止、残業の許可(承認)制を定めていることそれ自体だけではなく、実際の運用状況を従業員間の書面やメール等といった証拠とともに記録しておくことが大切です。

 

4固定残業代を支払い済みであるケース

固定残業代(定額残業代、みなし残業代)が導入されている場合、定められている残業時間内での時間外労働について追加の残業代の支払は要しません。そのため、「固定残業代を支給しており、既に残業代は支払い済みである」との反論が出来るケースがあります。

ただし、固定残業代については、制度自体の有効性が争われることが多いです。万が一制度として無効だと判断されてしまうと、会社が固定残業代としていたものが基本給に含まれている前提で未払残業代の計算がなされ、結果として高額な支払いに応じざるを得なくなってしまいます。

固定残業代制度を導入している場合は、「基本給と区分されていること」「何時間分の時間外労働の対価として支払っているか」といった点が従業員に明確に示されている運用がなされているかどうか確認してみましょう。

固定残業代(定額残業代、みなし残業代)の有効性についてはこちらもご覧ください 

5従業員が管理監督者に該当するケース

残業代を請求してきている従業員が労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」(労働基準法第41条)であれば、「割増賃金の支払義務の対象ではなく、残業代は発生しない」という反論が可能です。

ただし、言い換えればいわゆる「名ばかり管理職」に対してはこのような反論はできない、ということです。実務上、法律上の管理監督者であるかどうかは、社内でどのような名称で呼ばれているかという形式面ではなく、その職務内容(会社の経営への関与度合い)、権限(特に労務管理についての裁量権の有無、出退勤の自由度)、待遇(他の従業員と区別され相応なものであったか、残業代の支払いが無くとも問題ない程度の賃金であるか)といった実態面から「事業主と一体的な立場」にあるか否かを基準として判断されます。

6みなし労働時間制が適用されるケース

上記の管理監督者でなくとも、一日中外回りをしている営業職の従業員などについて「労働時間を算定し難いとき」には所定労働時間の労働をしたものとみなされます(労働基準法第38条の2。ただし業務の遂行に所定労働時間を超えた労働が必要な場合は厚生労働省令の定めるところにより「通常必要とされる時間」の時間外労働をしたものとみなされるほか、深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払いは必要です)。

これを「みなし労働時間制」といい、就業規則の定めがなくとも「労働時間を算定し難い」という要件を充たせば適用される制度です。そのため、社外で勤務している従業員からの残業代請求に対して「みなし労働時間制の適用により残業代は発生していない」との反論が出来るケースがあります。

ただし、みなし労働時間制が使用者に課された就業時間管理義務を例外的に免除するそもそもの趣旨は、事業場外の労働時間の算定が困難であることを理由に使用者が賃金の支払義務を免れようとすることを防止し、労働者を保護する点にあるということに留意しなければなりません。こうした制度趣旨から、実務上は「労働時間を算定し難い」としてみなし労働時間制が適用されるかどうかは厳格な判断がなされており、残業代を請求している期間の全部または一部について、「当該従業員が直行直帰していた」「就業時間の管理者の同行がない」「会社から事前にスケジュール(外回りルートや訪問先)の指示がない」「社外業務中に会社から電話等で具体的な指示をすることもない」「当該従業員が後でスケジュールを会社に共有する決まりがない」といった具体的な事情の有無が重要な考慮要素となっています。

北海道札幌の弁護士による企業労務顧問・労務相談

残業代の未払に対しては罰則や付加金も規定されているほか、裁判になれば遅延損害金も加算されて本来の残業代額を大幅に上回る支払いを要することもあります。適切な請求には真摯に対応しなければならないとはいえ、過大な請求に応じて会社の財産が不当に損なわれてしまうことは、会社のイメージや他の従業員を守るためにもあってはならないことです。そのため、請求を受けたら「本当に未払残業代があるのか」「未払があったとしても請求されている金額をそのまま支払うべきなのか」を検討することが大切です。

このように、こちらの記事ではすでになされた請求への反論として検討できるポイントをご紹介しましたが、並行して別の従業員からも同じような請求がなされるリスクを放置していないか、現在の労務管理や賃金制度の見直しをすることも重要です。

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、残業代請求を受けた会社側がどのような反論をすることが出来るか事案に即して判断し、法的に適切な解決を図ります。ご依頼を頂いた際には、適切な残業代を算出した上で、会社側の代理人として従業員側に反論をいたします。また、トラブルを未然に防ぐための就業規則等の整備や労働時間の管理体制の改善に向け、法的な見地から適切なアドバイスを致します。

労務管理、残業代請求に関して札幌を中心とする北海道の企業における労働問題の予防、解決に力を入れている弁護士法人リブラ共同法律事務所に是非ご相談ください。

 

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