労災の休業補償とは?給付の要件や必要な手続を弁護士が解説

 

 

労災保険の休業補償とは

労働者が業務を原因として、あるいは通勤によって傷病等を負い、休業を余儀なくされた場合に、本来得られるはずの収入を得られなかったときには労災保険より休業補償給付(※)を受けることができます。

(※)業務災害の場合。通勤災害の場合は「休業給付」が支給されますが、両者の名称の違いは事業主の労働基準法上の災害補償義務の有無によるもので、給付の要件や内容は変わりません。本記事ではまとめて「休業補償」と呼びます。

 

本記事では、

「従業員に代わり労災の休業補償の給付を請求することになったので、手続きの流れを知りたい」

「従業員が労災申請をした際、会社としてはどう対応すればよいのか」

という会社様に向けて、知っておくべき休業補償を受けるための要件や手続の際に知っておいていただきたい点について、使用者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が解説いたします。

 

休業補償を受けられる要件

休業補償を受けるためには、以下の要件を全て満たしている必要があります(労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)第14条)。

(1)業務上の事由または通勤による負傷や疾病により療養すること

まずは、療養の原因が業務災害、通勤災害によるものであることが要件となります。業務中・通勤中以外の事故による療養、育児休業、介護休業といった自己都合による休業や会社から命じられた休業、天災による休業などは該当しません。

また、「療養」のための休業であることが必要で、過去の通達では患部の治癒後の義肢の装着は「療養」の範囲に属さないことを理由に、義肢装着のための診療所への入所期間の休業は休業補償の対象外とする見解が示されています(昭和24年2月26日基収275号、昭和24年12月15日基収第3535号)。

 

(2)労働することができないこと

ここでいう「労働することができない」について、実務的には「当該労働者が負傷または疾病にかかる直前に従事していた労働が出来ないこと」ではなく、「一般的に労働不能であること」を意味すると解されています(東京地裁平成27年3月23日判決)。

さらに、別の裁判例では上記の一般論に加えて「労働者が使用者(雇用主)との労働契約に基づいてどのような労働を行い得るか」、すなわち「使用者(雇用主)のもとで従前従事していた労働の内容や態様、使用者(雇用主)と締結していた労働契約の内容や使用者(雇用主)がその企業の実情において提供可能な他の業務の種類など」も考慮に入れて判断すべきであること、および、「労働することが出来ない」場合には、「療養のため労働に従事することが物理的にできない場合」だけでなく、「医師が就労を禁止又は制限し、この指示に従わなければならないために労働に従事することができないなど療養管理上不適当とされる場合も含まれ、労働すると病状が悪化する場合」も含まれるという解釈を示したものもあります(東京高裁平成29年1月25日判決)。この裁判例の事案は航空会社で航空機の操縦に携わる副操縦士として勤務していた者が会社の業務である脱出退避誘導訓練への参加中に腰部を負傷したというものでしたが、 腰部への負担がより大きい操縦業務ではなく、一般の事務職と類似する地上業務に従事できるかどうか、という視点でこの要件を満たすかどうかが検討されました(当該労働者に腰や足の痛みのため長時間座り続けることができない、歩行速度が通常人よりも大幅に遅く歩行継続可能距離も通常人より大幅に限定されていた、という症状があったことを踏まえ「労働することが出来ない」状態にあったとし、その期間中の休業補償給付等の不支給処分を違法と判断しています)。

 

(3)賃金を受けていないこと

「賃金を受けない日」(労災保険法第14条第1項)に該当する日には以下の2通りがあります。

①所定労働時間の全部について労働することが出来ない場合で、事業主から受領した賃金が「給付基礎日額」の60%未満である日

②所定労働時間の一部について労働することが出来ない場合で、事業主から受領した賃金が「(給付基礎日額)-(当該労働時間に対して支払われる賃金)」の60%未満である日

 

給付基礎日額(労災保険法第8条)とは、原則として労働基準法上の平均賃金を指し、業務上又は通勤による負傷の原因となった事故が発生した日や医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときはその日の直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額(労働基準法第12条)に相当する額をいいます。

ただし、休業補償給付額の算定で用いられる給付基礎日額は、賃金水準による改訂を受けたり、療養開始後1年6か月を経過したときに年齢階層別の最低・最高限度額が適用されたりすることがあります。

 

休業補償を受けられる期間

上記の要件を満たすとき、休業補償は休業4日目から支給されます。支給要件を満たしている限り、傷病や疾病が「治ゆ」するまで支給を受けることが可能です。なおここでいう「治ゆ」には完治した場合だけでなく症状固定の場合も含みます。

ただし、療養開始から1年6か月を経過して以降、残存する症状が傷病等級第1級~第3級に該当するときは、休業補償から傷病補償年金の支給に切り替わります。

 

※休業3日までの補償について

休業開始から3日間は待機期間とされ、労災保険法に基づく休業補償は受けられません。

ただし、業務災害による休業の場合は、この3日の間は使用者が自ら、平均賃金の60%相当の休業補償を行う義務があります。

これに対し、通勤災害の場合は休業給付が受けられるまでのまでの待機期間中に使用者に補償の義務はありません。

 

休業補償の給付額計算

休業補償額は、1日につき給付基礎日額の60%相当額です(所定労働時間の一部労働し賃金を受けている場合は、給付基礎日額から当該労働時間に対して支払われる賃金を引いた額の60%相当額となります)。

給付基礎日額を算出する際に発生した1円以下の端数は切り上げることになっていますが、その給付基礎日額に60%を乗じる際に発生した1円以下の端数は切り捨てることになっていることに注意しましょう。

 

なお、休業補償を請求する資格を有する労働者には、休業特別支給金として給付基礎日額の20%相当額を受け取ることも出来ます。つまり、実際には合計で給付基礎日額の80%相当額の支給を受けることができるといえます。

 

※休業特別支給金とは

休業特別支給金は、社会復帰促進等事業(労災保険法第29条)のひとつとして制度が設けられているもので、働けない期間の給与を補填するための休業補償の給付(労災保険法第14条)とは異なる目的で支給されます。

もっとも、休業特別支給金の申請は休業補償給付の請求と同じ手続で行うことができるようになっています(申請書と請求書が一体となっている書式が使われています)。

 

労災の休業補償給付の請求方法

法律上、休業補償給付の請求については原則として労働者自身で行うことが想定されていますが、実際のところは会社が手続を代わりに行うことも多いです。そこで、こちらでは請求手続の概要を説明いたします。

(1)労働基準監督署に提出する書類

休業補償給付の請求は、以下の書類を所轄の労働基準監督署に提出することで行います。

①休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号、業務災害の場合)

または

休業給付支給請求書(様式第16号6、通勤災害の場合)

いずれも厚生労働省のホームページで取得することが可能です。

事業者による証明欄もあるので、内容を確認のうえ漏れなく記載しましょう。

 

②添付書類

同一の傷病・疾病により障害厚生年金、障害基礎年金等の支給を受けている場合にはその支給額を証明する書類が必要です。他にも労働基準監督所が事案に応じて必要と判断した書類の提出を求められることもあります。

 

(2)書類提出後の流れ

必要書類が提出されたら、労働基準監督署により当該傷病等が労災にあたるかどうか、休業補償給付の要件を満たしているかどうか、といった審査がなされます。この審査は事案にもよりますが概ね1か月程度を要しますので、会社が手続を代行する際も従業員が休業中の生活に不安を抱くことがないよう早めに対応するようにしましょう。

審査の結果、休業補償給付が認められたら従業員に支給決定額を記した支給決定通知が届き、従業員が指定する口座に休業補償と休業特別支給金が振り込まれます。

 

ここまでが手続の一連の流れとなります。休業が長期にわたる場合には、1か月ごとに休業補償を請求することが一般的です。

 

(3)申請の期限(時効)に注意!

休業補償給付の請求権は療養のために労働することが出来ず、賃金を受けない日毎に発生します。そして、請求権は発生翌日から2年経過すると時効により消滅してしまいますので注意が必要です。

 

労働災害(労災)の対応は顧問弁護士にご相談ください

傷病・疾病のため治療、療養を余儀なくされた従業員の方としては、仕事を休まなければならない状況で休業補償給付請求のために慣れない対応も必要となっては精神的にも大きな負担を抱えることとなってしまいます。そのため、労災に関する対応については会社としても出来る限り迅速なサポートをすることが望ましいといえます。

またここまで見てきた通り、労災により休業した従業員は休業補償給付等が受けられるものの、それで全ての損害がカバーされるわけではありません。そのため、労災保険によりカバーされなかった損害について改めて会社に損害賠償請求がなされるケースも少なくはなく、その際には会社は安全配慮義務を尽くしたことや使用者責任を負わないことを反論しなければなりません

 

とはいえ、労災発生時にどのような対応が必要なのかは業務の内容や生じた傷病等の内容によって様々です。そこで、できるだけ早い段階で労務問題に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、使用者側の労務問題に特化した顧問契約をご用意しております。傷病発生時や労災申請時には会社がとるべき措置や注意点についてお気軽にお尋ねいただく窓口として、従業員から損害賠償を請求された場合には会社の代理人として、顧問弁護士をご活用いただけます。

労災対応にお悩みの法人様・企業様は、使用者側の労務問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。

 

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